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 骨の欠損部分を再建する骨再生医療で、データや数学的手法の適用が進んでいる。メディカルデバイス開発のネクスト21(東京・文京)は、販売する体内固定用のメッシュプレートや3Dプリンターによる人工骨設計に、位相幾何学(トポロジー)の適用を進めている。患者のCT(コンピューター断層撮影)画像データを基にカスタムメード人工骨を設計するまでの過程をシームレスにつなぎ、次世代の骨再生医療の確立を目指す。

 ネクスト21が開発したチタン製のメッシュプレート「ULTRA FLEX MESH PLATE」の薬事承認内容の一部変更が、近く認められる見通しとなった。ULTRA FLEX MESH PLATEは骨の欠損部を補ったり移植した骨を体内で固定したりするのに使われる医療機器だ。承認内容の変更によって、同社の人工骨「CT-Bone」と組み合わせた「Hybrid-Bone Matrix」として提供できるようになり、これまで口腔(こうくう)外科領域に限られていた使用可能部位が全身に拡大した。

メッシュプレートと人工骨を組み合わせた「Hybrid-Bone Matrix」で骨の欠損部を治療する
メッシュプレートと人工骨を組み合わせた「Hybrid-Bone Matrix」で骨の欠損部を治療する
(出所:ネクスト21)
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 このメッシュプレートの構造設計で活用しているのが位相幾何学だ。位相幾何学は「柔らかい」幾何学とも呼ばれ、柔らかい素材で出来た図形を連続的に変形させてその図形の性質を探る学問分野だ。持ち手が1つのマグカップとドーナツを位相幾何学では同じもの(同相)と捉えるという例えを聞いたことがあるかもしれない。

 この位相幾何学をどう応用しているのか。メッシュプレートは網目が花形をした独自の「マーガレットメッシュ構造」をとっている。平面のプレートを移植箇所に合わせて立体にする工程で、この花形の構造が自在に変形する。変形前と変形後の形状は同相であり、角が出来にくく滑らかな曲面を再現できるだけでなく、応力が分散するため破損しにくい構造となっている。

「ULTRA FLEX MESH PLATE」の見本。引き延ばした左端と右端では花形の網目が自在に変形している
「ULTRA FLEX MESH PLATE」の見本。引き延ばした左端と右端では花形の網目が自在に変形している
(撮影:日経クロステック)
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 また、メッシュプレートと組み合わせるCT-Boneの構造設計でも位相幾何学を活用している。CT-Boneは患者のCT画像のデータを基に3Dプリンターで造形するカスタムメードの人工骨だ。α型リン酸三カルシウムという熱処理が不要な原料を使うため、自骨と癒合しやすく時間経過とともに自骨に置換していく性質がある。

 しかし、同社代表取締役社長の鈴木茂樹氏は「人工骨の外形をいくら正確に再現しても、ガスや水道が通っていない建物のようなもので実用性がない」と指摘する。重要なのは人体のライフラインである血管が通る、骨内部のスポンジ状構造を再現することだという。人工骨の内部まで血管や細胞が入り込むと、生理的な活性を維持でき自骨への置換が進みやすい。

CT-Boneで作った大腿骨(骨頭部分)の断面図。内部はスポンジ状になっている
CT-Boneで作った大腿骨(骨頭部分)の断面図。内部はスポンジ状になっている
(撮影:日経クロステック)
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 CT-Boneの内部には、スポンジを形成する骨梁(こつりょう)と呼ばれる構造を模した空洞が存在する。この設計に使っているのが、米nTopologyが開発したトポロジー最適化技術だ。部品の軽量化などに使われる技術で、これを人工骨に応用することで最適な強度を維持しつつスポンジ状構造を作ることが可能となった。

 また、血管の成長因子である線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor、FGF)を、人工骨を成形する際に混ぜ込む手法も開発中だ。人工骨の中にFGFを3次元配置することで血管を効率よく誘導でき、自骨への置換が加速する可能性があるという。