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 約25年ぶりに進化した検出器を備えるコンピューター断層撮影装置(CT)が日本でも使えるようになる。ドイツSiemens Healthineersの日本法人であるシーメンスヘルスケアが、X線のエネルギーレベルを検出できる「フォトンカウンティング検出器」を搭載したCTを日本で初めて実用化した。2022年6月から東海大学医学部付属病院で稼働を始める。これまでのCTと比較してより少ない放射線量で撮影し、高精細な画像を取得できるとしている。

フォトンカウンティング検出器を搭載したCTで撮影した頭部血管
フォトンカウンティング検出器を搭載したCTで撮影した頭部血管
(出所:シーメンスヘルスケア)
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 同検出器を搭載したCTの機能はそれだけではない。X線のエネルギーレベルを直接検出できるので、様々な画像表現が可能になる。このため今回のCTは「CTを再定義する」と言われ、これまでのCTの役割を超えて診療に役立つ可能性があるとして注目されているのだ。

 エネルギーレベルに応じて画像処理することで、元の画像から特定の物質を除去したり強調したりできる。その結果、炎症や血流の有無などを可視化できるため、患部の状態を把握しやすくなる。例えば骨折部分を撮影した場合、手術が必要な骨折なのか、そのままでも治癒する骨折なのかといったことが分かるという。

 東海大学医学部付属病院の橋本順 画像診断科診療科長は「こうした画像を取得できるようになったことで、CTで新しく目指すべき領域が急激に開けたと感じている。将来的には新しい造影剤との組み合わせによる画像にも期待している」と話す。

 今回のCTで肝となるフォトンカウンティング検出器の開発は複数の医療機器メーカーが手掛けているが、実用化はSiemens Healthineersが最も早い。同社は、同検出器を用いたCTの開発を15年以上継続してきたという。そして2021年9月に世界で初めて米食品医薬品局(FDA)が同CTを医療機器として認可した。その中で大きなブレークスルーとなったのが、半導体技術に強みを持つ日本企業のアクロラド(沖縄県うるま市)を2012年に子会社化したことだ。

アクロラドが手掛ける検出素子。2022年4月15日から17日まで開催された国際医用画像総合展(ITEM2022)で展示
アクロラドが手掛ける検出素子。2022年4月15日から17日まで開催された国際医用画像総合展(ITEM2022)で展示
(出所:日経クロステック)
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 アクロラドはフォトンカウンティング検出器を構成する、放射線検出素子の製造を担う。高純度のカドミウム(Cd)とテルル(Te)から単結晶を成長させて検出素子を製造しており、原料の高純度化や結晶成長などでノウハウと技術を有するという。シーメンスヘルスケアの森秀顕社長は「日本で開発されたイノベーションを世界に届ける手伝いができることを、大変誇りに思っている」と話す。