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 損害保険ジャパン、自動運転システム開発のティアフォー、高精度3次元地図に関する技術を持つアイサンテクノロジーと、東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平准教授の研究室が共同で開発した「自動運転システム提供者専用保険」。特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」以上の自動運転サービス向けの保険で、自動運転車を導入する企業ではなく、自動運転システムを提供するベンダーが加入する点が特徴だ。

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 2022年2月の発表から3カ月ほどの間に、早くも保険の適用範囲が拡大しつつある。保険を共同開発した1社であるティアフォーが最初の加入者となり、同社とヤマハ発動機との合弁会社であるeve autonomy(イヴ オートノミー)の自動搬送サービス「eve auto」に保険を組み込んだ。そのeve autoはヤマハ発動機の複数工場や、合成樹脂を手掛けるプライムポリマーの姉崎工場(千葉県市原市)で試験導入が進んでいる。

eve autonomyの自動搬送サービス「eve auto」の車両の運用シーン。eve autoには今回開発した自動運転システム提供者専用保険が組み込まれている
eve autonomyの自動搬送サービス「eve auto」の車両の運用シーン。eve autoには今回開発した自動運転システム提供者専用保険が組み込まれている
(出所:eve autonomy)
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 2022年4月末時点では工場で運用する自動搬送サービスが対象となっている。ただし損害保険ジャパンなどは今後、公道走行の自動運転車をはじめ、多方面に自動運転関連の保険を展開することを目指している。損害保険ジャパンの新海正史リテール商品業務部自動運転タスクフォースリーダーは「自動運転車が公道を走行すれば新たなリスクが出てくる。リスクを踏まえた新しい保険を、他の事業者とつくり上げたい」と意気込む。

共同研究の開始前は「衝突しない自動運転車の登場」に不安

 損害保険ジャパンが東京大学と、自動運転システム提供者専用保険などの展開につながる共同研究を始めたのは2017年5月のことだ。今でこそ自動運転向けの保険などの開発に前向きな新海リーダーだが、2017年5月以前は「自動運転技術は保険会社にとって脅威だ」と不安を抱いていた。仮に衝突などの事故を回避する自動運転車が登場すれば、事故がこれまでより減り、自動車関連の保険料も下がる。そうなれば保険料収入の減少は避けられないと考えられるからだ。

 ただし、当時は自動運転技術が今ほど具体化しておらず、自動運転技術が浸透した時代の保険の在り方も見えていなかった。「保険会社の仕事や自動車保険の形などがどう変わっていくのかを見極めるには、自動運転技術そのものを調べる必要がある」と新海リーダーは考えた。

 初めは自動車メーカーにヒアリングを試みたが、詳しい情報を得られなかった。そこで新海リーダーはベンチャー企業や大学に接触を試みた。そのなかで、東京大学大学院の加藤准教授と出会う。

「自動運転でも必ず事故は起こる、専用の保険が必要」という声で前向きに

 新海リーダーが自動運転サービス向け保険の開発に前向きになったきっかけが、加藤准教授の次のような言葉だった。「自動運転技術は事故を起こさないという期待をかけられています。しかし事故は必ず起こります。事故を減らすことはできても、ゼロにはできません。事故に備えるための専用の保険を保険会社が用意してくれないと、自動運転技術を市場に投入することはできないのです」

 この言葉を聞いた新海リーダーは「自動運転技術が普及しても保険会社の役割がなくなることはないのかと気づき、保険の開発に前向きになれた」とこのときを振り返る。ここから損害保険ジャパンと加藤准教授の研究室との共同研究が始まった。