半導体の生産に不可欠な有機フッ素化合物群「PFAS」の規制が、2025年にも欧米で始まる見通しだ。部材生産や調達の見直しに追われ、半導体の生産が滞る恐れも出ている。半導体関連メーカーはサプライチェーン(供給網)の連携を強めることで、代替品の開発や調達に力を入れる。半導体不足をさらに悪化させかねない規制に対して早期の対応が求められる。
欧州連合(EU)では環境や生態系に悪影響を及ぼすとしてPFASの規制に向けた検討が進んでいる。欧州の化学物質管理の法規則である「REACH規則」などで制限が決まれば、PFASの製造や使用、輸入が制限されるようになる。ドイツやオランダ、デンマークなどの欧州5カ国はPFASの一括制限を提案しており、早ければ2025年にもEUでPFASを制限する可能性がある。
PFAS関連部材を取り扱うメーカーは、従来のビジネスを継続できなくなる可能性があり危機感を募らせる。具体的な規制案は今後決まるが、PFASは生体蓄積性が指摘されるため当局は厳しい基準値を設定する見通しだ。
グローバルで規制強化の動き
米国でも「有害物質規制法(TSCA)」などで規制が議論されている。米メーン州では2021年7月にPFASを規制する州法である「PFAS汚染停止法(LD1503)」を法制化した。PFASの使用が不可避であると認められた場合を除き、2030年以降、全面的に使用を禁止するといった厳しいものだ。認可を受けた場合でもPFASを使用する製品のメーカーは、使用目的や量・種類を届け出る必要がある。
韓国や台湾、中国など半導体の主要生産地であるアジアではPFAS規制の計画は未定だが、環境政策で先行する欧米を参考にする傾向があり、将来的な規制化の可能性がある。PFASは半導体分野において、ウエハー上に回路パターンを転写するためのフォトレジスト(感光材)やエッチング工程で使う冷媒などに使うほか、製造装置内部の配管やバルブといった部品の表面加工など幅広い用途に利用されている。
半導体関連の業界団体であるSEMIは「半導体の製造過程でPFASは多岐にわたって使われている」とし、世界的な半導体不足に「さらなる追い打ちをかけることになるのではないか」と危機感を募らせている。SEMIでは代替物のない重要部材については、各国の規制当局に規制対象から免除するよう働きかけている。
SCREENセミコンダクターソリューションズ品質統括部(取材当時)の渋川潤氏は、「材料メーカーによる迅速な情報提供や代替材料の開発が進めば」と期待するが、サプライチェーン調査に多くの時間がかかっている現状を明かす。仮に新しい代替品に置き換えても、「最終製品の品質に問題が出ないか」「安定供給できるか」といった確認に時間がかかる懸念がある。