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 音楽が認知機能に与える効果を検証するプロジェクトが始まった。高齢者に人工知能(AI)を使った「疑似作曲」を体験してもらい、認知機能に変化が生じるかを確認する。AIによる作曲支援を手掛けるAmadeus Code(アマデウスコード、東京・港)と東京都立産業技術大学院大学による共同研究プロジェクト「音会(おとかい)」として、2022年2月に立ち上がった。将来的には認知症の予防を見据えた音楽教室としての展開を目指す。

AIが作曲した音楽の配信画面のイメージ
AIが作曲した音楽の配信画面のイメージ
Amadeus CodeはAIが作曲した音楽を配信するプラットフォームを展開する。(出所:Amadeus Code)
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 音会は、俳句を詠む句会や絵画を描く画会といった、同じ趣味を持つ人々が集まり作品を批評し合う場に着想を得た企画だ。東京都立産業技術大学院大学特任教授の佐藤正之氏は「AIを使えば誰でも作曲を楽しめる。作曲体験や他の参加者のものの見方や感じ方に触れることは、認知機能の維持・向上に役立つのではないかと考えた」とプロジェクト設立の経緯について説明する。

 音楽は「耳から取る心の栄養」ともいわれ、心身に好影響を与えると経験的にはよく知られていた。近年では音楽療法を科学的に検証した研究も進んでおり、音楽に合わせて運動することでパーキンソン病の症状が改善されるという例が有名だ。

 音楽には、鑑賞や演奏など様々なアプローチがある。その中で作曲に焦点を当てて認知機能への影響を検証し、認知症の発症予防と進行抑制を目指すプロジェクトが音会だ。Amadeus Code代表取締役CEO(最高経営責任者)の井上純氏は「作曲は、自分のイメージを表現して音楽の意味を考えるという、最も能動的でハイレベルな活動であるため、認知機能に与える影響も大きいのではないか」と語る。

 ただし、一般人がゼロから曲を作り上げるのはハードルが高い。そこで活用するのが同社の音楽配信プラットフォーム「Evoke Music(イヴォークミュージック)」だ。Evoke Musicに自分が作りたい曲のイメージを言語化して入力すると、そのキーワードを基にAIが作曲した楽曲が提示される。利用者は提示された楽曲と自分のイメージを擦り合わせることで、疑似的な作曲を体験できる。それが井上氏の言う「能動的でハイレベルな活動」につながる。

半年間の実験前後で認知機能を比較

 共同研究では65歳以上の高齢者100人を対象に、10人程度のグループで週に1回、半年間で計24回の音会を開く。参加者は事前に与えられた「お題」に沿った楽曲をEvoke Musicを活用して作曲し、音会に持ち寄る。疑似作曲の体験だけでなく、なぜその楽曲を選んだのかを他の参加者や先生役の音楽家と議論することも脳への刺激になると期待する。音会に参加する前と後に、脳活性総合研究所(東京・千代田)が提供する「脳活性度定期検査(脳検)」を使って認知機能を調べ、どのような変化が生じたかを検証する。

音会で期待される、作曲体験が認知機能に影響を与えるメカニズム
音会で期待される、作曲体験が認知機能に影響を与えるメカニズム
写真などのお題という視覚刺激からもたらされた曲のイメージを脳内で言語化し、AIが作った曲と自分のイメージを擦り合わせていく。(出所:Amadeus Code/東京都立産業技術大学院大学)
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 お題は例えば車の写真や花火大会の映像、詩、自分の過去の写真など多岐にわたる。回を追うごとに抽象度の高いお題に変えていき、より頭を使った作曲を体験してもらう。東京都立産業技術大学院大学の佐藤氏は「まだ序盤の具象画の段階だが、作る曲が参加者によってこんなに違うのかと驚いている。もっと抽象的なお題ではどんな仕上がりになるのか楽しみだ」と感触を語る。