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 自動車業界が「台湾有事」への備えを水面下で進めている。台湾の存在感が強い電機・半導体業界ではかねて懸念されていたが、ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにして自動車業界もそのリスクを直視せざるを得なくなった。既存のサプライチェーンを見直す動きも出てきそうだ。

もはや無視できないリスク

 「台湾が中国から武力行使を受けた場合の供給への影響を調べておいてほしい」。2022年春、ある部材メーカーの営業担当者は、主力顧客の自動車メーカーの調達担当者からこんな要請を受けた。同年2月にロシアがウクライナへの侵攻を始めてから、しばらくたった時のことである。

 これまでも、自動車業界は天災や事故によって部品・部材の供給が止まる事態を経験してきた。ただし、それはあくまで一時的な影響にすぎなかった。

 ところが、ロシアによるウクライナ侵攻が突き付けたのは、影響が半永久的に続くリスクである。世界各国がロシアに経済・金融制裁を科したことで、多くの日本企業はロシア事業からの撤退やロシア企業との取引停止をやむなく決断した。台湾有事によって同様の制裁が中国に科されれば、比較にならないぐらい大きな影響を受けるだろう。自動車メーカーから部材メーカーへの要請は、そうした非常事態を想定したものだ。

 台湾有事を巡っては、「依然として可能性は低い」「むしろ可能性は低くなった」といった見方もある。しかし、「単なる脅しにすぎない」「直前で回避されるのではないか」との観測もあったロシアによるウクライナ侵攻が現実となり、自動車業界も無視できなくなったことがうかがえる。

これまで検討したことがないシナリオ

 前述した自動車メーカーの調達担当者は、検討対象としていくつかのシナリオを例示してきた。部材メーカーの営業担当者は、それを聞きながら思い悩むことになる。