座っただけで、心臓や血流の状態を推定できるイスの開発が進んでいる。取り組むのは、自動車用シートを手掛けるデルタ工業(広島県府中町)とそのグループ企業のデルタツーリング(広島市)、広島大学医学部による産学連携の研究チームだ。研究チームはこのほど心臓の振動を検知する音響センサーの開発に成功した。このセンサーを内蔵したイスに座ると、背中などから心臓の振動を検知できる。イスのIoT(Internet of Things)化によって状態把握が容易になり、心臓病を早期に発見できる可能性がある。
音響センサーは0.5~80Hzの振動を捉えるコンデンサー型マイクロホンと、デルタツーリングが開発した自動車用シート素材「3D-NET」などから構成される。3D-NETはポリエステル系の糸を立体的に織り上げた素材で、マイクロホンの振動検知面を覆うように接触させている。
なぜマイクロホンを3D-NETで覆うのか。それは、「確率共鳴」と呼ぶ現象を発生させ、微弱な振動を捉えやすくするためだ。確率共鳴とは、入力値にあえてノイズを加えることで振動を共鳴させるもの。3D-NETはこのノイズを加える役割を果たしている。
利用者の呼吸などで生じる体の動きにより、3D-NETの中では摩擦音が発生する。摩擦音の周波数は、3D-NETを構成する繊維の固有振動数などにより決まる。「偶然にも摩擦音の周波数が、心臓の振動を共鳴させるのに適していた」とデルタツーリング常務取締役の藤田悦則氏は振り返る。