建築設計事務所大手の梓設計(東京・大田)が健康経営に力を入れている。健康管理システムを導入して従業員の健康状態を見える化するだけでなく、IoT(Internet of Things)デバイスで従業員の動きや環境データを取得して解析する取り組みも進めている。本社を「実験的オフィス」とすることで、健康の視点を取り入れた設計に生かす。
梓設計は意匠・建築・構造などを総合的に扱う組織設計事務所で、空港やスポーツ施設に強みを持つ。そんな同社が従業員の健康を重視する理由について、執行役員の櫻井康裕氏は「設計事務所は工場などで直接モノを作り出す仕事ではないため、人材こそが資産のすべてと言える。クリエーティブな仕事を続けてもらうには就業環境の整備が不可欠だ」と説明する。
同社の近年の大きな動きとして挙げられるのが、2019年8月の本社移転だ。それまで天王洲(東京・品川)と羽田(東京・大田)に分散していた本社機能を統合し、羽田空港近くの物流倉庫内の1フロアを使った新オフィス「HANEDA SKY CAMPUS」を構えた。HANEDA SKY CAMPUSは数々のデザイン賞を受賞しているが、健康経営を進める場としての評価も高い。
例えば、米国の健康建築性能評価制度「WELL認証(v2)」で国内企業初となる最高評価のプラチナランクを2020年5月に取得した。WELL認証は、空気や光、心といった10のコンセプトで評価されるシステムで、そこで働く人々の健康に配慮したオフィスであることの証明となる。
櫻井氏は、こうした外部認証を取得した背景として「近年は利用者の健康を意識した設計のニーズが増えている」点を挙げる。「まずは自分たちが実践して従業員の健康を維持するノウハウを蓄積し、設計業務にもフィードバックする」(同氏)。設計事務所における健康経営は本業とのシナジーも得られて一石二鳥というわけだ。
同社の健康に関する取り組みは従業員の健康状態を可視化するだけではない。本社のオフィス環境や従業員の活動をあらゆる側面から測定し、従業員の健康や生産性の向上につながるオフィスの在り方を検証している。