2022年4月20~21日に東京・両国で開催された「第13回MEMS Engineer Forum(MEF 2022)」 https://www.m-e-f.info/ で、伊仏合弁企業のSTMicroelectronicsが、2層エピポリSiプロセスを利用できる新しいMEMSプラットフォーム「THELMA Double Technology」を発表した。同様の技術を開発し、既に量産導入しているドイツRobert Bosch(ロバート・ボッシュ)にSTMicroelectronicsが続いたことで、MEMSセンサーのトップ2社が2層エピポリSiプロセスを使うことになる。MEMSセンサーの高性能化で両社は、いっそう優位に立つと考えられる。
MEMS慣性センサーのプロセス技術
2層エピポリSiプロセスがなぜ有力な技術なのか、これから説明していきたいと思うが、その前に、従来のMEMS慣性センサーがどのようなプロセスで作られているのか紹介する。代表的なMEMSプロセスは、キャビティーSOI(Silicon On Insulator)プロセスとエピポリSiプロセスである。
キャビティーSOIプロセス(図1)は、デバイス層(第1層のSi)の下に空間(キャビティー)のあるキャビティーSOIウエハーを使う。キャビティーの上にMEMS構造をつくれば、それが可動部になる。キャビティーSOIは、いくつかのウエハーメーカー、例えば、フィンランドOkmeticから購入できる。あるいは、MEMSメーカーが自らキャビティーSOIウエハーを製造することもできる。このプロセスは古くから確立されており、多くのMEMSメーカーが使っている。また、MEMSファウンドリーでも利用可能である。
もう一方のエピポリSiプロセス(図2)は、MEMS構造としてエピポリSiを用いる。これは厚さ20μmなどと厚いポリSiで、米Applied Materialsなどの枚葉式のエピタキシャルSi成膜装置で成膜する。そのキーポイントは、MEMS構造体を可動状態にリリースしたときに、反ったり変形したりしないように、厚膜の応力と応力勾配を極めて小さくすることにある。
厚さ20μmのポリSiは、半導体の常識からすると、異常に厚い膜である。通常、膜を積んでいくと、先に積んだ下の方の膜と後で積んだ上の方の膜は異なる熱履歴を受ける。あるいは、後で積む膜は既にある膜の結晶状態に影響される。このような理由で、膜の構造や応力が厚さ方向に変化してしまう。その結果、膜全体としては応力を小さく制御できても、応力勾配によってリリースしたMEMS構造が反ってしまう。このような問題を解決するために、図3に示すように種結晶から真っすぐ柱状に成長させたポリSiがエピポリSiである。