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 その名も「サクラ」──。日産自動車が2022年5月20日、新型軽電気自動車(EV)を本社(横浜市)で発表した。搭載した2次電池(以下、電池)の容量は20kWhで、満充電時の航続距離は約180km(WLTCモード)。価格は200万円を超えており、軽自動車としては高額だ。それでも、EVとしてはかなり思い切った価格に抑えている。果たして、ヒット車種となるか。

新軽EV「サクラ」
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新軽EV「サクラ」
20kWhの電池を搭載し、満充電すると約180km走る。(写真:日経クロステック)

 軽エンジン車と比べた場合に目を引く利便性が、「自宅で充電」できる点だ。特に、日本の地方ではガソリンスタンドの廃業が相次いでおり、自宅から最寄りの給油所まで10km以上離れているというケースが増えている。スマートフォンと同様に自宅でクルマに充電できれば、給油のためにわざわざ出掛ける必要がない。

 ただし、価格は233万3100円(税込み)からと、軽エンジン車と比べるとかなり高い。日産自動車では軽エンジン車「デイズ」の上級グレード「ハイウェイスター」の販売比率が高く、売れ筋の価格は150万円前後だという。これと比較すると、差額は80万円以上となる。

この価格で十分な利益は出るか

 この点に対し、日産自動車は補助金の活用をアピールする。国の補助金は55万円で、これとは別に補助金を用意する自治体もある。例えば、東京都の補助金は45万円で、再生可能エネルギーの電力メニューを契約する条件を満たせば60万円に増える。これらを活用すると、55万~115万円の補助金分を引けるため、実質購入価格は118万~178万円となる。売れ筋の軽エンジン車よりも安価に軽EVが手に入る場合もあるというわけだ。

 では、この価格で日産自動車は十分な利益を得られるのか。利幅の薄い無理をした価格設定ではないかと同社の開発設計者(以下、日産の開発設計者)にぶつけたところ、「開発面ではきちんと(コストを)積み上げて造っており、利益は出る」という回答だった。コストを抑えるために、EV「リーフ」やデイズの「既存技術や部品を流用して開発費を極力抑えた」(日産の開発設計者)と言う。例えば、電池はリーフのものを、プラットフォームはデイズのものを流用している。

軽EVの外観
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軽EVの外観
(写真:日経クロステック)

なぜ20kWhに設定したのか

 なぜ、日産自動車は電池容量を20kWhにしたのか。同社の商品企画担当者によれば、「軽エンジン車を所有する顧客の使い方を調査した。すると、1日の航続距離が30km以下の顧客が半数を超えていた(53%)」。この結果を踏まえつつ、「車体の限られたスペースに入る大きさ(小ささ)にする必要があった。また、容量が大き過ぎると充電時間が長くなり過ぎる上に、熱も発生する。もちろん、コストも高くなる。これらを総合的に考えて20kWhに設定した」と日産の開発設計者は言う。満充電で180kmの航続距離は「94%のシーンをカバーする」と日産自動車は胸を張る。

1日当たりの航続距離の分布(円グラフ)
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1日当たりの航続距離の分布(円グラフ)
軽エンジン車を所有する顧客から日産自動車が調べた。1日当たり30km以下しか走行しない顧客が過半数に達した。(写真:日経クロステック)

 日産自動車は、週末に満充電にして平日(週日)は充電せずに軽EVを利用するという使い方を提案する。200Vの電源を使って日曜日の夜に充電すると、一晩(7~8時間)あれば満充電にできる。これで平日に1日当たり30kmを走行すると、月~金曜日の5日間で合計150kmの走行距離となる。これに少し余裕をみて約180kmの走行距離を得られる条件が、20kWhの電池容量を選ぶ大きな決め手となったと日産の開発設計者は説明する。