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 厚生労働省は2022年5月25日に開催した社会保障審議会医療保険部会で、医療機関などに対し、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるシステムの導入を2023年4月から原則として義務化する方針を明らかにした。

 「義務化はやむを得ない。最終的には必要だ」(日本慢性期医療協会副会長を務める池端病院の池端幸彦院長)、「義務化には反対だ。導入できなければ保険医療機関をやめろというのか」(日本医師会の松原謙二副会長)ーー。同日の医療保険部会では義務化を巡り、医療機関当事者で医師でもある委員らから賛否の声が出た。

オンラインと会場のハイブリッドで開催された2022年5月25日の社会保障審議会医療保険部会
オンラインと会場のハイブリッドで開催された2022年5月25日の社会保障審議会医療保険部会
(撮影:日経クロステック)
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マイナ保険証の対応施設は全体の2割弱

 厚労省が原則義務化を打ち出したのにはワケがある。マイナンバーカードの健康保険証としての利用は当初予定から半年以上遅れて2021年10月に本格運用が始まったが、依然として利用できる医療機関の数が低迷しているためだ。

 2022年5月15日時点で、マイナンバーカード保険証を利用できる医療機関や薬局などは全体の19.0%。政府は「2023年3月までにほぼ全ての施設で導入する」と2019年9月のデジタル・ガバメント閣僚会議で決定したが、目標にはほど遠い。特に導入率が低いのは全国に約9万ある診療所で、13.0%にとどまる。

 利用できる医療機関が少なく、マイナンバーカードを所持する患者も少ないため、マイナンバーカード保険証の利用も低迷している。2021年10月の本格運用開始から2022年4月末までのマイナンバーカード保険証の利用は全国合計で約85万件だった。

 マイナンバーカードを健康保険証として利用する「オンライン資格確認」の導入には、それぞれの医療機関などが顔認証付きカードリーダーの設置に加え、レセプトコンピューター(レセコン)の改修やネットワークの整備などを進める必要がある。

 厚労省はシステム導入にかかる費用を補助しているが、その入り口である顔認証付きカードリーダーを申し込んだ医療機関などはこの1年でほとんど伸びていない。2021年4月25日までに顔認証付きカードリーダーを申し込んだ医療機関などは全体の57.3%に対し、1年後の2022年5月15日時点でも57.9%と微増にとどまる。

 医療機関などが顔認証付きカードリーダーを申し込むと、受け取るまでに約4カ月かかる。そのうえでベンダーに発注してシステム改修などを実施する。これらの作業が途中で止まっている医療機関なども多い。

「アメ」と「ムチ」で推進

 オンライン資格確認の導入に向け、厚労省はこれまで医療機関などに対して、システム導入時の補助金給付以外にもさまざまな対応を進めてきた。

 架電やダイレクトメールなどによる周知、システムベンダーに対する医療機関への働きかけの要請、地域ごとの説明会の実施、医療関係者と推進に向けた協議会の開催などである。

 患者から批判の対象となった、マイナンバーカード保険証利用時の診療報酬加算も、医療機関への導入対応の一環だった。厚労省は2022年4月の診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」を新設。マイナンバーカードを保険証として利用した患者は自己負担3割の場合、初診で21円、再診で12円の負担が生じるようになった。医療機関にとっては収入の拡大につながるため、システム導入の動機付けになる。今後、中央社会保険医療協議会でこの加算の見直しを検討する。

 これらの対応にもかかわらず、依然としてマイナンバーカード保険証の利用が低迷しているのだ。