ロボットや人工知能(AI)を用いて実験室を自動化し、人体の網羅的解析を支援するプロジェクトが始まった。沖縄科学技術大学院大学(OIST)とコランダム・システム・バイオロジー(東京・港)による共同研究「MANTAプロジェクト」で、2024年度までに全自動化した実験室を構築する。年間10万人分の検体を処理できるようにする計画で、一人ひとりに合った個別化医療などへの貢献を目指す。
2022年4月25日に発表されたMANTAプロジェクトでは、OIST内に設置する実験室に各種のロボットや分析機器を配置して連係するほか、各機器から出力されるデータを自動で統合するAIなども開発する。検体を指定の場所に置くと前処理から実際の分析、データの出力まで自動で処理するシステムを構築する。
研究対象となるのは、人体の生命活動を網羅的に解析する「マルチオミクス」と細菌群集の組成やそれらの代謝産物を解析する「マイクロバイオーム」と呼ばれる2つの領域だ。人体そのものの活動としてのマルチオミクスと、人体に影響を与える要因としてのマイクロバイオームという2つの観点で膨大なデータを自動取得・解析し、人体を丸ごと理解しようとするのがプロジェクトの骨子となる。
重要なのは「標準化されたデータ」が取れること
MANTAプロジェクトが目指すのは自動化によって「標準化されたデータを安く、速く、大量に取得すること」(コランダム・システム・バイオロジー社長の大竹秀彦氏)だ。構築する実験室は年間10万人分の検体を処理できるスペックとする計画で、解析にかかるコストを従来の2分の1、処理能力を10倍程度にする想定だ。しかし、コスト軽減や処理能力の向上と同等以上に重視しているのは、「標準化されたデータ」を取ることにあるという。
実験を複数の研究者が行うと、習熟レベルの差や用いる機器の違いによるノイズが大きくなる恐れがある。一連の実験をシステムとして確立して自動化すれば、こうしたノイズを最小限に抑えられ、データの品質と再現性を担保できる。
コランダム・システム・バイオロジー取締役の田中康進氏は「基本的には既存の機器やロボットをどうつなげるかという方向でプロジェクトを進め、その自動化システムの設計図がプロジェクトの成果となる。最新の分析機器を使って珍しいデータを取る必要はなく、別の拠点にもそのまま移植できるようなロバスト性を持ったシステムを目指している」と語る。世界中で比較可能なデータが大量に得られるようになれば、マルチオミクスやマイクロバイオームの研究のさらなる加速につながる可能性がある。