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 実用化がなかなか進まない、究極の電子材料。グラフェンはその代表格だ。なぜ実用化されないかといえば、何の工夫もなく成形すると積層=グラファイト化してしまい、グラフェンならではと期待した特性値が、既存の安い材料並みになるからだ。キャパシターの電極用途では比表面積がダダ下がりして活性炭以下になってしまう。

 こうした状況に楔(くさび)を打ち込むかもしれないスタートアップが登場した。2022年2月に黒田拓馬氏と西原洋知氏が設立した3DCである。黒田氏は化学メーカーを経てベンチャー支援を手掛けていた人物。西原氏は東北大学 材料科学高等研究所 教授である。既に3DCはベンチャーキャピタルのリアルテックファンドから初回の資金調達を実施した(図1)。

図1 3DCの経営者と支援者
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図1 3DCの経営者と支援者
左から東北大学 材料科学高等研究所長の折茂慎一氏、同研究所教授兼3DC CTOの西原洋知氏、リアルテックファンドの山家創氏、3DC CEOの黒田拓馬氏、リバネス代表で3DC顧問の丸幸弘氏。(写真:3DC)

 3DCが狙う用途は、蓄電・発電デバイスの電極。中でも学術研究が進んでいるのが、電気2重層キャパシター(EDLC)の電極である。EDLCの静電容量は電極面積が、ひいては炭素材料の比表面積が左右する。ところが比表面積は耐腐食性とトレードオフの関係にある。容量を追求すれば寿命が短くなってしまうのだ。

 3DCはこのジレンマを「GMS(Graphene Meso Sponge)」で断ち切ることを提案している。GMSとは、スポンジのような3次元構造を備えたグラフェンを指す(図2)。炭素原子がほとんど1層でひと続きしているので、GMS電極は活性炭電極よりも格段に腐食しにくい。腐食はエッジサイト(端)で生じるからだ。

図2 化学的に堅牢(けんろう)で物理的に柔軟
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図2 化学的に堅牢(けんろう)で物理的に柔軟
西原氏らが開発したグラフェンメソスポンジ(GMS)は、グラファイトのように積層しない立体物である。グラフェンが孔(あな)の空いた球状の壁でつながるので、比表面積が高く端(エッジサイト)がわずかしかない。これが化学、物理、電気的な特徴をもたらす。(図:3DC)

 東北大学がTPD(昇温脱離)と呼ぶエッジサイト計測法によれば、同大学が造った粉体状GMSは0.1mmol/g。クラレ製の活性炭「YP-50F」は3.4mmol/gと、大幅に多かった。比表面積は粉体状GMSが1940m2/g、YP-50Fが1700m2/gである。西原氏はEDLCの電極に、GMSや単層カーボンナノチューブ、活性炭をそれぞれ適用した場合における耐久性の高さを確認した(図3)。単層カーボンナノチューブ品は、重量エネルギー密度や出力密度こそGMS品と同等だが、500サイクル、300時間で破裂したという。

図3 壊れにくい高容量キャパシター
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図3 壊れにくい高容量キャパシター
西原氏らは、GMSシート(比表面積1500m2/g、厚さが200μm、細孔直径5~7nm)を用いて電気2重層キャパシターを製作した。4.4Vで印加すると、重量エネルギー密度が10Wh/kg時の出力密度は、60W/kgと活性炭品の2.7倍ほどだった。この性能が同等の単層カーボン・ナノチューブ品は、4.4V印加を500回または3.5V印加で300時間すると破裂して静電容量(両極電極質量当たりの静電容量)を計測できなかった。(図:西原洋知氏)