全2703文字
PR

 日本企業における89%の社員が日常業務を遂行するうえで基礎的なデータスキルの重要性を認識し、74%がさらなる研修を望んでいる――。データスキルの向上に関して社員の意欲が高い様子が調査で判明した。

 一方で、75%の経営層が社員に十分なデータスキルを身に付けさせていると考えており、同じように考える社員は40%にとどまった。米Salesforce(セールスフォース)グループのTableau(タブロー)が2022年6月2日発表した。

 データ活用は企業がビジネスにDX(デジタルトランスフォーメーション)を起こすための基盤となる。問題を可視化してAI(人工知能)などの技術を使って解消したり、事業創出のヒントにしたりできるからだ。そのためには、社員はデータの重要性を理解し、データ活用を前提として業務に当たるのが望ましい。だが日本企業にはデータスキルをきちんと身に付けられる環境が十分に整っているとはいえないようだ。

 経営層と社員の意識のギャップをどう埋めていくか。専門家に聞いた。

自分ごととしてデータ活用できない

 日本企業におけるデータ教育のそもそもの問題として「社員にとってデータが自分ごとになっていない」。そう指摘するのは、滋賀大学データサイエンス学部データサイエンス学科の河本薫教授だ。eラーニングや研修などを企業が提供していたとしても、社員自身が業務に生かす必然性を感じられないと、手元にある課題に対してデータを利用すべきなのかが分からない。

 調査ではデータスキルは「データの意味」を推定し、データに関する発見を伝達するスキルと定義する。基本的なデータスキルには、データを理解・活用し、意思決定に利用する力(データリテラシー)や基礎的なデータ分析能力などが含まれる。

 データをうまく活用していない企業では、データ教育は一部の社員向けに限られることが多い。セールスフォース・ジャパンの佐藤豊常務執行役員Tableau事業統括カントリーマネージャーは経営層と社員の意識の乖離(かいり)について「世界的なデータ活用の潮流の中、経営者はもはや立ち止まることはできないと知っている。問題はデータスキルに関する教育を、組織の全員が受けられていないことだ」と指摘する。

セールスフォース・ジャパンの佐藤豊常務執行役員Tableau事業統括カントリーマネージャー(左)と滋賀大学データサイエンス学部データサイエンス学科の河本薫教授
セールスフォース・ジャパンの佐藤豊常務執行役員Tableau事業統括カントリーマネージャー(左)と滋賀大学データサイエンス学部データサイエンス学科の河本薫教授
[画像のクリックで拡大表示]

 近年見直される「継続的な学習」の必要性を社員は認識し、アップスキリング(現在の職務における能⼒と進歩に必要なスキルが変化することで求められる)やリスキリング(新しい職務のために新たな能力を付ける)を望んでいるという背景がある。Tableauが発表した調査で判明したように、現状以上のデータ教育を望んでいる社員は7割に上るが、現実には組織内に全部門がアクセス可能なデータ基盤や環境が整っていないケースは多い。

「過去3年間で重要性が増したスキル」のうち「基礎的なデータスキル」の国別順位(黄色)。日本では1位だった(赤枠)。他の国でも1位と2位を占めた
「過去3年間で重要性が増したスキル」のうち「基礎的なデータスキル」の国別順位(黄色)。日本では1位だった(赤枠)。他の国でも1位と2位を占めた
(データ: Forrester 2022, ビジュアライゼーション: Tableau)
[画像のクリックで拡大表示]

経営者は変革への抵抗勢力の説得を

 経営者はデータ教育に関してどのようなアプローチを取ればいいのか。河本教授は2つ挙げる。1つはデータを大事にする姿勢を持つことと、もう1つは抵抗勢力になりがちな従来型の組織を変える仕組みや仕掛けをつくることだ。

 データを経営の軸に据えている経営者は既に「コミットしている」(佐藤カントリーマネージャー)。例えば自ら社員の前でデータ教育の取り組みを発表するといった姿勢だ。「データスキルに関するeラーニングを年に2回提供する」といった条項を雇用契約に含めるデータ活用先進企業も増えつつあるという。

 一方、経営者がデータ活用に積極的でも、勘と経験に頼って仕事をしてきた事業部門の責任者などのミドル層が抵抗勢力になりやすい。データを使った事業変革の試みに失敗すると責任を取らされるという恐れがあるからだ。経営者はミドル層を説得し、抵抗を小さくしていく必要がある。「(データ活用を)教育問題ではなく、経営問題として捉えるべきだ」(河本教授)。