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 JR東日本が架線張り替え工事の際に電化柱(電柱)の傾きを監視する業務に、省電力無線技術を活用している。新しい「電化柱傾斜監視システム」は、従来の方式に比べて機器を大幅に簡素化でき、「数人がかりで運んでいたのが1人で済むようになって工事の省力化につながった」(同社電気システムインテグレーションオフィス新宿電気システム工事区区長の古山幸男氏)という(図1)。機器の設置に要する手間も大きく省けた。

図1 工事現場に設置した無線装置(ゲートウェイ)
図1 工事現場に設置した無線装置(ゲートウェイ)
列車が通らない夜間に施工する。(写真:JR東日本)
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 新型コロナウイルス感染症の広がりによるリモート勤務の増加などにより、鉄道事業者は乗客の減少で厳しい状況に置かれている。コストの削減がこれまで以上に重要になる中、サービスを維持しつつ新技術の採用でコスト削減を図る動きが進んでいる。電化柱傾斜監視システムもその試みの1つといえる。

電化柱の傾きを監視

 省電力無線の技術とシステムを提供したのは、無線通信スタートアップのソナス(東京・文京)。ソナスは、独自のIoT(Internet of Things)向け無線技術「UNISONet(ユニゾネット)」を開発している。機器の設置が簡単なこと、小容量の電池で長期間動作させられる特徴がある。

 このUNISONetの通信ノードを傾斜センサーと一体化した「センサユニット」を電化柱の頂部近くに取り付けて、その電化柱に傾きが生じていないかを監視する。センサユニットは30分に1回、「ゲートウェイ」装置から信号を受け、観測データをゲートウェイに返信する仕組みだ。ゲートウェイはさらに、インターネット経由でサーバーにデータを送り、異常がある際には電子メールなどで関係者に警報を出す(図2)。

図2 電化柱傾斜監視システム
図2 電化柱傾斜監視システム
30分に1回、センサユニットのデータをゲートウェイに集約する。(出所:JR東日本、ソナス 一部を編集)
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 電化柱傾斜監視システムは、架線の張り替え工事を実施する一定期間設置する。架線には数~数十kNの張力がかかっており、電化柱は架線から力を受ける(図3)。架線の取り付け位置変更などの工事によって張力などに変化が生じると電化柱が傾く原因になり、列車と接触すると大きな事故になるため、必要に応じて傾きの有無を監視する。

図3 架線の端を支える電化柱の例
図3 架線の端を支える電化柱の例
左に伸びる架線を支えるため、右下からワイヤで引っ張っている。(写真:日経クロステック)
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 JR東日本は現在、首都圏の線区で従来の架線をメンテナンスしやすい「インテグレート架線」に交換する工事を進行させており、ここでも電化柱傾斜監視システムが活躍する。電車への送電経路はこれまで、パンタグラフに接するトロリー線、トロリー線をつり下げる吊架(ちょうか)線、変電所からトロリー線へ電気を送り込むき(饋)電線で構成されているが、インテグレート架線では吊架線にき電線の役割を兼ねさせて電線の本数を削減。合わせて、鋼材を組み合わせていた電化柱やビーム(梁、はり)も、メンテナンスしやすい鋼管製に一括して取り換える。

 この工事はケーブルドラム(最大1600m)単位で、半年から1年の期間をかけて実施するため、架線や電化柱を取り換える現場は順番に少しずつ移動する。局所的に見ると、電化柱傾斜管理システムを取り付ける期間は1~2カ月程度になる。その期間は、バッテリー交換なしで運用する。