デンソーが、カーエアコンの構造をがらりと変えた。30年以上改良を続けてきた方式を刷新し、25%の小型化と30%の省電力化を達成した。採用第1号はトヨタ自動車の電気自動車(EV)「bZ4X」だが、パワートレーンの種類によらず使える。
デンソーは体積を半減したエアコンを2025年までに実用化する意向を、2019年に実施した日経Automotiveの取材で示していた。これまで実現方法を隠してきたが、ようやく重要な手札が見えた。
刷新したのは、カーエアコンの中核を担うHVAC(冷暖房空調装置)のブロワーファン(送風機)である。デンソーサーマルキャビンシステム開発部HVAC開発室長の奥村佳彦氏が明かす。
「1990年代に乗用車へのカーエアコン装着がほぼ全車に普及する以前から、当社は一貫して『シロッコファン』をHVACの送風機に用いてきた。今回、約30年ぶりに新たな方式として『ターボファン』を採用した」
HVACの7割占める空気の通路
小型化は永遠の課題だが、このタイミングでHVACの方式を刷新したのには意味がある。同社サーマルキャビンシステム開発部HVAC事業推進室開発2課担当係長の加藤慎也氏は「クルマのリビング化が進みつつあり、次世代キャビン(車室空間)の実現に貢献するHVACが求められていた」と語る。
HVACは、車内に風を送るブロワーユニットと暖房用の暖気をつくるヒーターコア、冷房用の冷気をつくるエバポレーターという3つの主要部品で構成する。一般的なHVACは、ヒーターコアとエバポレーターを一体化したエアコンユニットをインストルメントパネル中央部に、その横の助手席側に送風機を内蔵するブロワーユニットを配置する。このため、ブロワーユニットがある助手席側の足元スペースが圧迫されてきた。
足元スペースを確保する手段として、エアコンユニットとブロワーユニットを縦に並べるという方法がある。例えば、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)のEV「ID.3」や同Audi(アウディ)のEV「Q4 e-tron」は、ブロワーユニットを車室内からフロントフード下へと追い出した。高熱を発するエンジンがないEVならではの配置だ。それでも、HVACとしての体積は変わらないので、フロントフード下の部品配置のスペースが窮屈になったり、キャビン拡張の際の制約になったりする。
奥村氏は、「30年かけて粛々と小型化を進めてきたが、(従来の方式では)そろそろ限界に来ている」と感じていた。では、どこを見直すか。着目したのは、「HVACの体格のうち、7割を占めるのが空気の通路」(同氏)という事実だった。“空気の箱”ともいえるHVACにある無駄な空間を減らせれば、体積半減が現実味を帯びてくる。
空気の通路として特に大きかったのが、ブロワーユニットとエアコンユニットをつなぐ部分だ。結論から言うと、デンソーは今回、2つのユニットを一体化した。送風機をエバポレーターとヒーターコアで挟む構造とした。
そして、この構造を実現する上でポイントになったのが、送風機の刷新だったのだ。