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 情報サービス産業協会(JISA)は2022年6月14日、地方自治体の基幹業務システム標準化に関して牧島かれんデジタル大臣に提言を提出した。2025年度末という標準化の目標時期を弾力的に運用することなどを求めた。その背景には、中小規模の自治体で情報システム部門のリソースが不足するなか、中央官庁と自治体が共同利用する「ガバメントクラウド」に自治体の基幹業務システムを移行するコスト削減効果が見えないことがある。

 全国約1700の自治体は情報システムに毎年合計で5000億円以上を支出しているとされる。政府は自治体に対し、基幹系など20業務について2025年度末までに標準準拠システムに移行し、原則としてガバメントクラウドを利用することを求めている。これにより、情報システムの運用経費などを2026年度までに2018年度比で3割削減する目標を掲げる。

中小規模自治体はシステム運用を地域ベンダーに依存

 「標準化はすべきであり、反対する企業はない。だが、ガバメントクラウドの利用にはまだ議論が必要だ」。提言を作成したJISAの加藤健氏は言う。

 加藤氏はJISAで社会の革新委員会デジタル社会推進部会の部会長を務め、大分県で自治体向けシステムの開発や運用を手掛けるオーイーシーの社長でもある。同会には同社や両備システムズ、RKKCSといった地域ベンダー、パッケージベンダーなどが所属している。

 JISAは提言で、自治体基幹業務システムの標準化とガバメントクラウドへの移行について、3点を求めた。具体的には、「デジタル庁と地域ベンダーの連携・協力体制の構築」「2025年度末という目標時期の弾力的運用」「ガバメントクラウド利用に当たっての仕様や責任区分、費用負担などを早期に示すこと」――である。

 背景には、主に全国自治体の94%を占める人口20万人未満の中小規模自治体が持つ標準化への懸念がある。中小規模の自治体は情報システム部門の職員が6人以下であり、システムの運用や新システムへの移行は地域ベンダーに少なからず依存している。

 こうした現状を踏まえ、提言では主に次の3つを課題に挙げた。(1)特に小規模自治体で人材などのリソースが不足すること、(2)標準化では開発や移行作業を担うベンダーに大規模な作業が生じ、ベンダーのSEなどが不足して、各自治体を十分に支援できなくなること、(3)ガバメントクラウドに移行した後も自治体には移行対象外のシステムが残り、システムの運用やマネジメントが複雑になること――である。

ガバメントクラウド移行で追加の運用管理が必要に

 提言に当たり、JISAの同部会が特に問題視したのが、ガバメントクラウドへの移行によってコスト削減効果を実際に得られるかどうかである。デジタル庁は、具体的な数値を出してはいないが基幹業務システムを従来のオンプレミス環境からガバメントクラウドに移行することで運用コストを削減できるとしている。

 自治体システム標準化の計画が立ち上がる前から、自治体は情報システムのクラウド活用を進めてきている。総務省の方針によるものだ。単独の自治体がプライベートクラウドを使うケースや、地域ベンダーがデータセンターで提供するシステムを共同利用する「自治体クラウド」の利用頻度も増えた。2020年4月時点では全国約1700自治体のうち1279団体がクラウドを導入し、うち611団体が106グループの自治体クラウドを使っている。

 JISAは、特に現在クラウドを使っている自治体での、ガバメントクラウド移行によるコスト削減効果を疑問視しているという。オンプレミスからガバメントクラウドに移行するケースほどコスト削減効果を期待できないうえ、標準化対象外のシステムの運用管理が残るためである。

JISAが指摘する、ガバメントクラウド移行後に生じるシステム管理の課題
JISAが指摘する、ガバメントクラウド移行後に生じるシステム管理の課題
(出所:情報サービス産業協会)
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 「(標準準拠システムとそれ以外のシステムにまたがる)全体管理業務が追加で必要になる。地域ベンダーで請け負ってほしいと言われても、ガバメントクラウドの仕様や契約状況、運用管理の全体像が見えない現状では、地域ベンダーも不安な状況に置かれている」。同部会の委員も務めるオーイーシーの山戸康弘理事公共広域推進事業部はこう話す。