全3449文字
PR

 2022年3月22日に発生した電力需給ひっ迫を解説する本連載。今回から2回にわたり今後の対策について解説します。3月22日は「お願い」ベースの節電で事なきを得ましたが、不確実性が高く、対策として不十分です。今回のような稀頻度のひっ迫に対しては、需要側の対策、特に経済合理的な需要側で実施するDRや断熱に取り組むべきです。
 折しも6月7日に政府は今夏に節電要請を行うと表明しました。電力需要がピーク期に当たる夏場と、非ピーク期の3月の逼迫に違いはあったとしても、需要側の対策が重要なことは両者に共通します。

関連情報: 第1回:3月22日の電力需給ひっ迫はなぜ起きたのか、根本原因と対策を探る 第2回:福島県沖地震と急激な寒波到来、需給ひっ迫は不可避だった? 第3回:原子力が再稼働すれば需給ひっ迫は回避できたのか? 第4回:需給ひっ迫後に登場した「計画停電・原則不実施」の謎

 まず、需給ひっ迫対策を検討する前に整理しておかなければならないことは、電力需要の非ピーク時に起きた3月22日の需給ひっ迫と、冬季や夏季のピーク期に供給力が足りなくなる可能性があるという議論は全くの別物だということです。第3回で過去の統計データを分析しながら解説したように、3月22日は非常に稀な事象が重なった「稀頻度事象」による需給ひっ迫なのです。

 3月22日のような稀頻度事象に対して、新規電源の投資や原子力の再稼働といった電源側の対策で備えようとすると、期待される便益(需給ひっ迫や停電の発生確率×被害額)に対して対策コストが必要以上に高くつく可能性があり、費用対効果(費用便益比)があまり期待できません。

 稀頻度事象に対しては、コストが比較的安く済む需要側で対策を推進することが合理的です。そこで今回は需要側の有望な対策として「DR」(デマンドレスポンス)と断熱について解説します。供給力を増やすばかりが需給ひっ迫対策ではないのです。

 なお、政府が発表した今夏の節電要請はピーク期の供給力不足への対応なので、3月の稀頻度事象による需給ひっ迫とは原因が異なります。ピーク期の供給不足については電源側の対策も検討すべきでしょう。ただ、需要側の対策はピーク期の需給ひっ迫対策としても非常に有効なものであり、すぐにでも検討すべきです。

電源側の対策ではなく、需要側の対策こそ重要

 3月22日の需給ひっ迫では東京電力パワーグリッドや経済産業大臣から「節電へのご協力のお願い」が何度も発信され、結果的に多くの企業や市民が協力して、間一髪で停電を免れました。

 東電PGの公開資料によると、当日8~23時までの時間帯で約40GWh(4000万kWh)の節電協力が得られたとのこと。1時間ごとのデータを見てみると、需要の大きな17時台に約5GW(500万kW)、原発5基分の出力に匹敵する量を需要側で対応しました。これは良い意味で驚異的な実績と言えるでしょう。

17時台は節電により需要想定値より実績値が約5GWも減少した
[画像のクリックで拡大表示]
17時台は節電により需要想定値より実績値が約5GWも減少した
図1●3月22日の電力需要実績の分析(出所:経済産業省 第46回電力・ガス基本政策小委員会、資料3-1)

 しかし、ここは「多くの人が協力してなんとか危機を乗り切った」と美談にするわけにはいきません。リスク対応を「お願い」ベースに手法に頼るのは不確実性が高く、義務や責任、それに伴う報酬が不透明になるからです。

 事実として5GW分の需要側対応ができたということには一定の評価を置くものの、次に同じようなリスクが到来した際は、この行動があらかじめ定められた契約や市場取引によって促されるよう制度設計を進める必要があります。