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 日産自動車は、新型電気自動車(EV)「アリア」の駆動用モーターに、巻き線界磁式の同期モーター(Electrically Excited Synchronous Motor、EESM)を採用した(図1)。EVでは現在、誘導モーター(Induction Motor、IM)を使う車種もあるが、永久磁石式の同期モーター(Permanent Magnet Synchronous Motor、PMSM)が主流である。日産はなぜ、アリア用にEESMを開発し採用したのか――。日産パワートレイン・EV技術開発本部パワートレイン・EVプロジェクト部電動パワートレインプロジェクトグループパワートレイン主管(EV)の軍司憲一郎氏は、そこには主に3つの理由があると説明する(図2)。

図1 日産の新型EV「アリア」
図1 日産の新型EV「アリア」
(写真:日産自動車)
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図2 日産パワートレイン・EV技術開発本部パワートレイン・EVプロジェクト部電動パワートレインプロジェクトグループパワートレイン主管(EV)の軍司憲一郎氏
図2 日産パワートレイン・EV技術開発本部パワートレイン・EVプロジェクト部電動パワートレインプロジェクトグループパワートレイン主管(EV)の軍司憲一郎氏
(写真:日経クロステック)
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 第1の理由は、「アリアの使い方を考えて」(同氏)のことだ。アリアは、同社のハッチバック車タイプのEV「リーフ」「同e+」とは違い、SUV(多目的スポーツ車)タイプであり、車格もリーフより上の少し高級なEVである。通勤や通学、買い物といった利用に加えて、レジャーでも安心して使いたいという要望が想定される。リーフよりも高速道路を使う機会も増え、高速走行時の効率がより重要になる。すなわち、PMSMは高速側で効率が悪化することから、EESMの方が有利と判断した。

 PMSMの場合、界磁に永久磁石を使うことから、その磁束は一定である。従って、モーターの回転数が上がるほどローター側の磁束によって生じる逆起電力は大きくなる。ローターがある回転数になると、その逆起電力はモーターの印加電圧に達し、ステーターの巻き線にはそれ以上電流を流せなくなってしまう。そこで、PMSMでは、ある回転数以上においては、ステーターの巻き線に電流を流し、永久磁石の磁界とは反対向きの磁界を発生させる。「弱め界磁制御」と呼ばれるもので、これにより効率が悪化する。一方、EESMでは、界磁にローターの巻き線を使っていることから、同巻き線に流す電流を増減させることでローター側の磁束を加減でき、高速側の効率を高めやすい。

 アリアにおいて日産が高速側で有利なEESMを採用したのは、実は、以下の要素も関係している。まず、高速走行が多い欧州を主戦場とするフランスRenault(ルノー)の新型EV「Megane E-TECH Electric」とモーターを共用するという点だ(図3)。それに加えて、EV市場をけん引する欧州でもアリアを販売することである。さらにはアリアの販売先となる米国でも車速は若干高めになることだ。「日本(市場)だけを考えると、(EESMでもPMSMでも)どちらでもよかったが、バランスを考えて少し高速型にした方がよいと判断した」(同氏)とする。

図3 ルノーの新型EV「Megane E-TECH Electric」
図3 ルノーの新型EV「Megane E-TECH Electric」
(写真:ルノー)
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 もっとも、モーターの効率を総合的に捉えると、どちらも一長一短である。「低速低回転側はPMSMが優れ、高速高回転側はEESMが優れており、行って来いのところがある」(同氏)。今回は、前述の要素に加えて、レジャー用途が多いSUVということで、高速高回転側を重視した格好だ。

 第2の理由は、車格に見合った上質なクルマとして、音や振動を抑えたかったからである。アリアでは、車両の遮音性能を高めたり、ロードノイズを抑えるタイヤを開発したりするなど、静粛性を高めている。そのような中で、駆動側の音を抑えられないと、どうしても車室内に聞こえてしまう。軍司氏は、「全開加速はともかくとして、街乗りや高速道路の巡航時などトルクがあまり要らないシーンにおいて、電磁加振力を抑えたいという思いがあった」と明かす。EESMであれば、PMSMと違ってローター側の磁力を加減できることから余計な電磁加振力をかけずに済み、音や振動を低減できると説明する。

 そして第3の理由が、ジスプロシウムなどのレアアースを使うリスクを減らせることである。地球上に偏在しているジスプロシウムなどの希少元素は安定調達に対する不安を伴う上、価格高騰というリスクも存在する。永久磁石を使わずに巻き線を使うEESMの技術を確立できれば、希少元素をなるべく使わないという観点から会社としてのロバスト性を高められる。

 もっとも、同社ではPMSMにはPMSMの良いところがあることから、EESMとPMSMを使い分けていく考えである。クルマの用途や仕向け地、アライアンスを含めたラインアップ、その時代の技術などを考慮して採用していくという。