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 東芝デバイス&ストレージと東芝は、高電圧直流送電(図1)などに向けて、新構造のパワー半導体のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)*を開発・試作し、パワー半導体の国際学会「The 34th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs(ISPSD 2022)」(2022年5月22~25日(カナダ時間)に現地およびオンライン開催)で口頭発表した ニュースリリース 。今後、試作したIGBTの改良を進め、2025年以降に耐圧4500V・コレクター電流3000Aのパワー半導体として製品化する予定である。既存のIGBT製品に比べて、送電効率が向上する。

* 注  両社はIGBTではなく、独自の改良を加えてIEGT(Injection Enhanced Gate Transistor(電子注入促進型絶縁ゲートトランジスタ)と呼ぶ。IEGTはIGBTのエミッターの素子構造を最適化し、高耐圧化に伴う急激なオン電圧の増大を改善した素子という
図1 高耐圧大電流IGBTの適用例
図1 高耐圧大電流IGBTの適用例
(出所:東芝デバイス&ストレージ)
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 現在、東芝デバイス&ストレージが高電圧直流送電など向けに提供しているIGBT製品(IGBTとダイオードを1パッケージに収めた製品、製品番号はST2000GXH31/同32)では、耐圧は4500Vを達成しているが、コレクター電流値は2000Aにとどまっている。コレクター電流値を3000Aに引き上げるのが、今回試作したIGBT開発の主な狙いである。

 今回試作したIGBTを、東芝デバイス&ストレージと東芝は「ダブルゲート構造を採用した逆導通型IGBT」と呼んでいる(図2)。この呼び名のうち、「ダブルゲート構造」とは2つのゲートを備えた素子を意味する。「逆導通型IGBT(Reverse Conducting IGBT)」は、順方向電流(ダイの裏面から表面への電流)によるIGBT動作と、逆方向電流(ダイの表面から裏面への電流)によるダイオード動作の双方が可能な素子をいう。東芝デバイス&ストレージによれば、ダブルゲート構造のIGBTの試作例や、シングルゲート構造の逆導通型IGBTの試作例はどちらもこれまでにある。両者の特徴を備えた、「ダブルゲート構造を採用した逆導通型IGBTの試作は今回が初めて」(東芝デバイス&ストレージ)という。

図2 試作したIGBT
図2 試作したIGBT
左が従来のIGBTの構造図。中央が試作したIGBTの構造。右は試作したチップのイメージ(出所:東芝デバイス&ストレージ)
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 上述した4500V・2000Aの現行製品は、2つのダイを1パッケージに収めている。今回の試作品は、1つのダイに集積されているため、小型になる(図3)。さらに、ダブルゲート制御によって、シングルゲート制御では得られないメリットがある。すなわち、導通損失(オン時の損失)はそのままで、スイッチング時の損失を削減可能なため、コレクター電流の大電流化が図れる。一般的なIGBTでは、導通損失とスイッチング損失はトレードオフの関係にあり、一方を減らせばもう一方が増えてしまう。今回試作したIGBTでは導通損失が増加することなく、スイッチング損失を低減できる。

図3 試作した「ダブルゲート構造を採用した逆導通型IGBT」のメリット
図3 試作した「ダブルゲート構造を採用した逆導通型IGBT」のメリット
(出所:東芝デバイス&ストレージ)
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