2022年6月16日、楽天グループ傘下の決済事業会社、楽天ペイメントが発表したある新サービスが、業界関係者の目にとまった。楽天証券と共同発表したその内容は、楽天グループのオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」で、投資信託の積み立てができるようにするというもの。投信積み立ての上限額は月5万円で、2022年6月19日に提供を始めた。
サービスの内容そのもの以外に、もう1つのキーワードが関係者の注目を集めた。「楽天キャッシュ」である。
クレカやフリマからチャージできる「オンライン電子マネー」
楽天キャッシュとは楽天系のネットサービスやスマートフォン決済の「楽天ペイ」を使った決済に充当できる電子マネーだ。楽天グループの会員IDを持つ利用者が、登録手続きなしに利用できる。
利用にあたってはあらかじめ残高をチャージしておく必要がある。楽天系のクレジットカード「楽天カード」や銀行サービス「楽天銀行」の口座からチャージできるほか、フリーマーケット(フリマ)サービス「ラクマ」の売上金や暗号資産(仮想通貨)取引サービス「楽天ウォレット」でためた暗号資産もそれぞれチャージ原資に使える。
利用者にとっての利点の1つが、様々な局面でポイントサービスの「楽天ポイント」を得られることだ。例えば楽天カードでチャージして楽天ペイで支払うと、チャージ額の0.5%と決済額の1%で合計1.5%分を楽天ポイントとして還元する。2022年6月19日に始めた投信積み立ての場合、楽天カードでチャージして楽天キャッシュで投信を購入すれば、合計で1%分のポイントが得られる。
「楽天グループのペイメント(決済)戦略の中核」。楽天ペイメントは、楽天キャッシュをこう位置付ける。「グループ内のサービスの中でも勢いがある。引き続き推していく」。楽天ペイメントの鍋山隆人戦略室マネージャーは、こう意気込みを語る。
グループ内のネットサービスや決済サービスに加えて、今後はグループ外との連携を加速するという。第1弾として今夏にも、セブン銀行のATMで楽天キャッシュの残高をチャージできるようにする。
こうした楽天グループのフィンテック事業の中でもイチオシとする楽天キャッシュ。実はサービス開始が2008年と、歴史は意外に古い。もともとは楽天系の商品やサービスをネットで紹介する「アフィリエイト」の報酬として付与していたものだ。当初はアフィリエイト報酬向けのみだったチャージ手段として、2018年にラクマ、2019年に楽天カードや楽天銀行、2021年に暗号資産をそれぞれ追加し、チャージ手段を増やしてきた。
いくつかの「なぜ」
ただ、依然として「知る人ぞ知る」サービスである感は否めない。楽天ペイメントによれば、楽天ペイアプリからのチャージ額(2021年)は前年比146%増だが絶対額は非公表。伸び率の大きさは絶対額の小ささの裏返しとみられても不思議ではない。
それだけにいくつかの「謎」が浮かぶ。楽天グループには「Edy」という電子マネーがあるのになぜ別の電子マネーを用意するのか。オンライン決済ならクレジットカードを使えばいいのに、なぜわざわざチャージする手間をかけさせてまで楽天キャッシュを使うようアピールするのか。そして、楽天グループはなぜ楽天キャッシュを推すのか。