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 ルネサス エレクトロニクスは、ソフトウエアファーストでクルマのE/E(電気/電子)開発を進めるための取り組みを本気で始めた。同社の車載ソフトウェア開発統括部 統括部長の川口 裕史氏によれば5年前から準備をはじめ、ここ3年ほどで取り組みが本格化したという。2022年3月3日にオンライン開催したアナリスト/報道機関向け説明会「Analyst Day」では、目指す姿として「Unified development environment」が紹介された*1、*2。今回、川口氏に、Unified development environment開発への思いや進捗状況を聞いた。

 クルマのE/E(電気/電子)アーキテクチャーは、かつての分散型から、ドメイン型やゾーン型へと移行している(図1)。分散型ではドライバーが全体制御を行っていたが、ドメイン型やゾーン型ではセントラルコンピューターがその役割の一部や全部を担うようになる。これに伴い、ソフトウエアの重要性が高まり、開発スタイルも変わる。従来のスタイルでは、最初にハードウエアが決まり次にそこで稼働するソフトウエアを開発していた。今後は、ソフトウエアファーストの開発スタイルになる。すなわち、最初に稼働させたいソフトウエアを決めて次にそのソフトウエアを処理するためのハードウエアを開発する。

図1 クルマのE/E(電気/電子)アーキテクチャーの進化
図1 クルマのE/E(電気/電子)アーキテクチャーの進化
左端は従来の分散型。中央はドメイン型で、セントラルコンピューター(図の中央上の青いボックス)がドメイン(機能)別に制御する。右端がゾーン型で、セントラルコンピューター(図の中央の青いボックス)が、クルマのゾーン(場所)別に制御する。実際のクルマでは、全体が左から中央、中央から右と一気に変わるのではなく、2つまたは3つが混在しながら、最終的には右のゾーンアーキテクチャーに落ち着くとみられる(出所:ルネサス エレクトロニクス)
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 ソフトウエアファーストの開発スタイルに向けて、ルネサスが整備を進めている開発環境が「Unified development environment」である(図2)。整備が完了すれば、ユーザー(自動車メーカーや電装品メーカー)はアプリケーション開発に専念できるようになり、それより下層の部分はルネサスとエコシステムパートナーがすべて提供するという。

図2 「Unified development environment」のイメージ
図2 「Unified development environment」のイメージ
ユーザー(自動車メーカーや電装品メーカー)はアプリケーションを開発するだけでよく、それより下層はすべてルネサスとエコパートナーが提供することを目指す(出所:ルネサス エレクトロニクス)
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 川口氏によれば、ソフトウエアファーストの開発、すなわちUnified development environmentの整備では、次の2点が特に重要だという。第1に、開発の早い段階で、想定している性能仕様(処理速度やタイミング、遅延時間、発熱、放射電磁ノイズ(EMI)など)を満たすかどうかが分かること(図3)。現在でも、機能だけならば、例えばC言語でモデル化すれば確認できる。しかし、機能面で問題がないことを確認しただけで開発を進め、最終段階で性能仕様面の問題が発覚すれば、大きな手戻りが発生し開発期間が大幅に延びてしまう恐れがある。第2の重要ポイントは、E/Eシステム全体の性能仕様を検討できること。E/Eシステム中の個々の素子で問題がなくても、全体を構成したときに問題が起これば、第1のポイントと同様に、大きな手戻りが発生し開発期間が大幅に延びてしまう恐れがある。

図3 開発の早期に性能仕様を見積もれないと、ソフトウエアファーストは実現できない
図3 開発の早期に性能仕様を見積もれないと、ソフトウエアファーストは実現できない
(出所:ルネサス エレクトロニクス)
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 第1のポイントも第2のポイントも重要であることは、記者にも分かる。しかし、ICやSoC(System on a Chip)1つの開発においてさえ、両方を実現することはそれほど容易ではない。少なくとも100個を超えるICやSoCを含むクルマのE/Eシステムで果たして可能なのか。この疑問を川口氏にぶつけたところ、「容易でないことは確かだ。しかし、車載半導体のリーダーである我々には、やらないという選択肢はない。Unified development environmentの最終形に到達するには一定の時間がかかるかもしれないが、取り組みは始めている」(同氏)。こう述べた同氏は、以下のように複数の事例を挙げた。