全2734文字
PR

 東京ガスがAI(人工知能)を活用したコールセンター改革を進めている。2021年10月には質問文の意味をAIが理解して適切な回答文を提示するシステムを、2022年4月には顧客からの電話問い合わせの内容を文字にするシステムを導入した。新システムの導入によって、年間1万1000時間超の応対時間を削減したという。

 東京ガスの子会社で、受付業務を委託されている東京ガスカスタマーサポートが導入を進めているのは、電話応対するオペレーターを支援するAIシステムである。同社ではオペレーターのことを「コミュニケーター」と呼んでいる。人間による単純作業をなるべくAIに代行させ、人間はAIにはできない創造性が必要な業務に専念させる狙いだ。

業務の増加で効率化が急務に

 東京ガスカスタマーサポートの運用企画部センター企画グループに所属する小林友グループマネージャーは、オペレーターを支援するシステムを導入した理由を「多種多様な問い合わせに迅速に対応するためだ」と説明する。東京ガスは祖業であるガス事業だけでなく、現在は電力小売事業なども手がける。新規事業が増えるにつれ、コールセンターに寄せられる問い合わせの内容も多岐にわたるようになった。

 東京ガスカスタマーサポートはこれまでコミュニケーターを支援するために、ガイドライン集と掲示板、FAQ集という3つのシステムを運用していた。コミュニケーターは各システムの検索機能を使い、問い合わせに関する情報を探していた。しかし東京ガスカスタマーサポートのデジタル化推進部デジタル運用グループに所属する内田充グループマネージャーは「情報が3つのシステムに散在してしまい、コミュニケーターが欲しい情報にたどり着くまでに時間がかかることがあった」と打ち明ける。

 従来のシステムが備えていたキーワード検索機能には、コミュニケーターが必要とする情報を探しにくいという問題があった。例えば「検針票を再送してほしい」との顧客からの要望に関する情報を調べる場合、「検針票」というキーワードだけで検索すると、本文に検針票を含む全ての情報が検索結果に表示されてしまう。一方で「検針票 再送」と検索しても、本文に再送ではなく送付と記述されている情報はヒットしない。コミュニケーターが適切な検索キーワードを考える必要があった。

 コミュニケーターが応対に時間を要すると、問い合わせてきた顧客の満足度は低下する。さらにコミュニケーターが分からない場合は、上長にエスカレーションしなければならない。こうしたエスカレーションコストも課題になっていた。

 そこで東京ガスカスタマーサポートは、社内に散らばった情報(ナレッジ)を統合し、AIが情報の検索を支援する新システムを構築することにした。新システムのポイントは、従来のようなキーワード検索ではなく、自然な文章を用いた検索ができることである。コミュニケーターが入力した質問文はAIがその内容を理解し、適切な回答をAIが探し出す。

 従来のキーワード検索は、キーワードが含まれる文章を探すだけだ。それに対して新システムの場合は、質問文に含まれる単語が含まれていない文章であっても、その内容が質問への回答として適切であるとAIが判断すれば検索結果に含まれる。新システムにはアクセンチュアの「AI POWERED ナレッジシェアリング」というサービスを活用した。

システムの全体像
システムの全体像
(出所:アクセンチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

PoC段階では不評

 新システムの開発は2020年11月に始めた。東京ガスカスタマーサポートはまずPoC(概念実証)として、社内に散らばった情報を1つのデータベースに集約して、AIにそれらの情報を学習させることにした。学習に際しては、社内にこれまで蓄積してきた情報を「質問文」と「回答文」のペアに分類して学習データとし、質問文と回答文の関係性をAIに学ばせた。こうすることで、新しい質問文に対して適切な回答文を見つけ出すAIをつくった。AIの調整などは主にアクセンチュアのエンジニアが担当し、東京ガスカスタマーサポートは主に学習データの作成を担当した。

 しかしPoCで開発したシステムは現場になかなか浸透しなかった。PoC初期の段階では検索結果のヒット率が低かったためだ。さらに「旧システムと並行稼働したため、慣れている旧システムを使う人が多かった」(東京ガスカスタマーサポートの運用企画部センター企画グループの岩下荒一郎サイトマネージャー)。