「現在、世界の新車販売台数は年間約8000万台だが、今後は3億台、5億台という規模になる」――。大胆な予測を披露したのは、日本電産会長の永守重信氏だ(図1)。将来的に、航続距離を抑えた安価な電気自動車(EV)の需要が爆発的に伸びるとの見方を改めて示した。同社が2022年7月20日に開いた2022年度第1四半期(2022年4~6月)の連結決算説明会で語った。
永守氏は、これまでにも「搭載するリチウムイオン電池の容量を小さくすれば、EVは安く造れる。一充電で100km程度走行できれば十分だ」と主張してきた。同氏がEVの低価格化にこだわるのは「現在、最もクルマを欲しがっているのは、所得の低い層である」(同氏)との考えからだ。航続距離については、通勤や買い物といった用途が中心であるため、100km程度と短くても問題ないとみる。
永守氏は、今後の主な自動車の買い手として、アフリカや中国の地方部に住む人々を挙げた。こうした人々は「クルマに300万円、500万円も払えない」(同氏)。購入できるのは「ガソリン車で排気量が1L以下に当たる車両」(同氏)とみる。こうした見方から、中国・上汽通用五菱汽車が約50万円で販売した「宏光MINI EV」のような、安価で小型のEVの需要が大きく拡大するのを「確信している」(同氏)と力を込めた。
そのうえで、永守氏が同会見で評価したのが、日産自動車が2022年6月に発売した軽自動車タイプのEV「サクラ」だ。同EVの電池容量は20kWhで、満充電時の航続距離は180km(WLTCモード)である。同年7月初旬時点で、受注台数は1万8000台に達した。同氏は「販売する顧客層を決めて、電池容量を小さくして価格を抑えたから売れている」との見解を示した。
日本電産は、駆動用モーターとインバーター、ギアボックスを一体化した電動アクスル「E-Axle(イーアクスル)」の量産で先行する。今後は、永守氏が「数量が爆発的に伸び、最も多く売れる」とみる低価格な小型EV向けを中心に、駆動用モーターや電動アクスルの採用を増やしていきたい考えだ。
高級EV向けの電動アクスルについては「手掛けている」(永守氏)としながらも「高級車ばかり相手にして、市場動向を見失うのは避けなければならない」(同氏)と強調する。満充電時に600~700km程度走行できるようなEVは「低価格の小型EVとは別の市場」(同氏)とする。全てのEVが航続距離の延長を目指すような流れに対しては「車両価格の上昇につながる」(同氏)と否定的だ。