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近年、製造業では、人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)を活用したスマートファクトリー化が進んでいる。それに伴い、機械工学分野では、機械系だけではなく、制御やソフトウエア、ネットワーク、さらには社会環境など、より広い知見・技術が求められるようになってきた。技術者を送り出す大学などの教育機関においても、そうした技術者をどう育成していくかが課題となっている。

 埼玉工業大学は、2019年から情報システム学科に「AI専攻」を、2021年には機械工学科にもIoTとAIを活用したものづくりを学ぶ「ロボット・スマート機械専攻」を新設。加えて、機械工学関係の実習・実験環境として「総合実験実習棟(34号館、以下、実習棟)」(通称「スマートデザインファクトリー」)を2022年度に稼働させた。これからのものづくり人材を育成するべく、学内の3つの棟に点在していた実習用の機器や設備を集約した施設だ。

総合実験実習棟(34号館)
総合実験実習棟(34号館)
(写真:小林 由美)
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「かつての実習室には壁があった」、集約でコミュニケーション活性化

 総合実験実習棟内の1階は横長の広い空間が広がる。入って右側には「ファクトリーゾーン」があり、同ゾーンは「手仕上げ加工エリア」「旋盤・フライス加工エリア」「NC加工機エリア」を備える。一方、左手には学生たちが工学研究にいそしむ「ラボゾーン」がある。ファクトリーゾーンは機械工学科の学生らが日々の実習や実験で利用し、ラボゾーンは主に卒業研究のために利用している。工場さながらの2つのゾーンは、2階の吹き抜け部から一望できるようになっている。

2階からファクトリーゾーンを見たところ
2階からファクトリーゾーンを見たところ
(写真:埼玉工業大学)
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ラボゾーンからファクトリーゾーンにかけて
ラボゾーンからファクトリーゾーンにかけて
(写真:小林 由美)
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 「これまで各実習室には壁があった。今は、隣で他の皆が何をやっているか、よく見えるようになった。実習棟にいる人たちでコミュニケーションが取りやすくなっている。学生たちは、学生生活の中で自分がどういう実習をするのかもイメージしやすい」と語るのは、埼玉工業大学 工学部機械工学科の学科長である教授の河田直樹氏だ。

 かつて鉄道車両メーカーの機械設計者だった河田氏。縦割りの業務分担などから生じるコミュニケーションの低さに課題を感じていたという。そんな同氏が、「ものづくりにおける理想の環境」の一例として具現化したのがこの新しい実習棟だ。「『実践的で分かりやすい』教育によって、就職したら即戦力になれる人材の育成を目指している」(同氏)。

埼玉工業大学大学院工学研究科教授および工学部機械工学科学科長の河田直樹氏(左)と、同科教授で同大学副学長・工学部長兼産学官交流センター長の福島祥夫氏(右)
埼玉工業大学大学院工学研究科教授および工学部機械工学科学科長の河田直樹氏(左)と、同科教授で同大学副学長・工学部長兼産学官交流センター長の福島祥夫氏(右)
(写真:小林 由美)
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 同大学の副学長かつ工学部長で、工学部機械工学科教授の福島祥夫氏も、工具メーカーの設計者としての経験を持つ。同氏によると、実習棟は「広い空間なので音がよく反響し、話し声が通りづらい。そのため、声を張り上げてはっきりとしゃべらなくてはならない」という。実は、それが製造業の現場における振る舞いの疑似体験も兼ねているのだという。さまざまな機械音が鳴り響く製造業の現場では、大きな声ではっきりと聞こえるように会話をしなければ、指示や注意の声がうまく伝わらず、最悪、事故や災害につながる恐れもあるからだ。