ここ数年、電気自動車(EV)の火災事故が相次いでいる(図1)。発生件数は少ないものの、こうした事故は消費者の購買意識に影響を与えかねない。EVシフトを進める自動車メーカーや、EV向けにリチウムイオン電池を供給するメーカーにとっては、電池の発火による火災事故の撲滅が喫緊の課題だ。電池の製造段階で、発火原因をいかに減らすかがカギになる。
EVの火災事故の発生頻度については、ハイブリッド車(HEV)や内燃機関(ICE)車よりも少ないとの指摘がある。例えば最近では、米国の自動車保険比較サイトAuto Insurance EZ(オートインシュアランスEZ)による2022年6月の発表がそれに当たる(図2)。米・国家運輸安全委員会(NTSB)のデータを基に実施した同サイトの調査結果によると、米国における販売台数10万台当たりの火災の発生件数は、ICE車が約1500台、HEVが約3500台だったのに対し、EVは約25台だった。
しかし、これからまさにEV販売を増やしていきたい自動車メーカーにとっては、1度の火災事故がブランドの失墜を招き、競争から脱落する恐れがある。車載電池のメーカーとしても、シェアの獲得競争が過熱する中で、自社製の電池からの発火で車両が燃えれば、自動車メーカーが調達先を変更するリスクも増す。
車載電池の発火原因はさまざまとされるが、代表格として挙がるのが、電池セルにおけるコンタミネーション(金属異物の混入、以下、コンタミ)だ(図3)。電池の製造過程では、セパレーターに使う金属の切り粉などが、セル内に混入することがある。これが内部短絡(ショート)を引き起こし、化学反応が急激に進んで一定の温度に達すると、熱暴走により発火するという仕組みだ。電池メーカーはコンタミの検出にコストをかけているが、見つけるのは容易ではないとされる。
最近ではコンタミに加え、セルやパックにおける溶接部の品質不良が、電池の発火原因として注目され始めた。電池の製造工程には、溶接を伴うものがいくつかある(図4)。溶接が不十分な箇所は、通電時に抵抗値が大きくなり発熱する。こうした部分に大電流が流れると、発熱から発火につながる恐れがある。また、溶接時に発生するスパッタ粒子がセル内に混入すると、コンタミのように作用することもあるという。
こうした問題を、電池の製造段階における検査によって解決しようとするのが、電気計測器大手のHIOKIだ。同社は2022年内に、セルの絶縁状態を検査する「絶縁抵抗試験機」の新世代品や、セルやパックの溶接品質を検査する「溶接抵抗計」など、電池向けの計測器3製品を市場投入する。EVの火災事故を受け、電池メーカーから安全性を担保できる検査装置への要望が増えているという。
HIOKIとしては「安全な電池を供給するための検査に使ってもらいたい。火災事故につながる潜在不良を減らすのに貢献できる」(同社カスタマーマーケティング部フィールドデザイン課商品企画統括リーダーの佐藤雄亮氏)とする。新製品は発売前だが、すでに「引き合いは多い」(同社)。