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 「このままではじり貧になる。消える前に、何とか“新天地”を探さないと」――。悲壮感を漂わせながら訴えるのは、ある日系エンジン部品メーカーの幹部である。内燃機関車の販売禁止や電気自動車(EV)シフトといった逆風が吹き荒れるエンジン部品業界で、生き残りに向けた動きが表面化してきた。

 大きな動きがあったのは2022年7月27日。リケンと日本ピストンリングが、2023年をめどに経営統合することで基本合意したと発表した。2022年11月中の最終合意を目指し、2023年4月に共同持ち株会社「リケンNPR」を設立する予定。

自動車用エンジンのピストンリング
自動車用エンジンのピストンリング
写真は日本ピストンリングが量産中の製品。(写真:日経Automotive)
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 両社はいずれも、エンジンのピストンリングを主力製品とする自動車部品メーカーである。リケンの主要顧客はホンダで、日本ピストンリングはトヨタ自動車に部品を多く供給する。今回の統合によってリケンNPRは、ピストンリング市場の世界シェアが3割近くに高まる見通しである。

 リケン社長兼最高経営責任者(CEO)兼最高執行責任者(COO)の前川泰則氏はかねて、「エンジン車のピークは2030年前後」と語ってきた。ピークを過ぎてもエンジン車がすぐになくなるわけではないが、今が動くときだと判断したのだろう。経営統合によって規模を確保し、残存者利益を狙える競争力や体力を維持していく。

 残存者利益を狙う道は、「攻めと守り」で言うと守りにあたる。だが、守る一方では、冒頭の発言のようにいずれじり貧になる。そのことを部品メーカー各社は肌で感じており、生き残りに向けた攻め筋を探る。エンジン技術の新しい出口はどこか。

水素エンジンにEV用モーター

 リケンが新天地の1つとして取り組むのが水素エンジンの領域である。「水素・新エネ事業推進室」を立ち上げ、新潟県の柏崎事業所で水素エンジンの実機評価を2022年5月にスタートさせた。「既に国内外複数社のメーカーのプロジェクトで試作品の引き合いを受けている」(同社)状況だという。

水素エンジンの実機評価設備
水素エンジンの実機評価設備
リケンが柏崎事業所に設置した。(写真:リケン)
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 同社は水素エンジンの他に、「新製品開発部」で電波雑音(ノイズ)対策部品や樹脂部品などの展開を強化している。一例が、ミリ波レーダーやECU(電子制御ユニット)向けの樹脂ケースである。アルミニウム(Al)合金製の従来品に比べて「30%以上軽い」(同社)という。樹脂表面に金属のコーティングを施すことで電磁波シールド性を持たせた。

リケンが開発したミリ波レーダー用ケース
リケンが開発したミリ波レーダー用ケース
樹脂の表面を金属でコーティングした。(写真:日経Automotive)
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 日本ピストンリングは、小型EV向けの「アキシャルギャップ型」モーターを開発中だ。技術の肝は、「エンジン部品で培った焼結技術を活用したコア(鉄心)」(同社の開発担当者)である。アキシャルギャップ型モーターは鉄心の形状が複雑になるため、電磁鋼板を積層して造るのが難しい。

小型EV向けの「アキシャルギャップ型」モーター
小型EV向けの「アキシャルギャップ型」モーター
日本ピストンリングが開発した。既に試作車を用意して走行実験済み。(写真:日経Automotive)
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 同社は、金属の粉を圧縮成形して焼結する技術を使ってアキシャルギャップ型モーターの鉄心を造った。エンジン用カムシャフトの製造技術を活用した。同社のカムシャフトは、スチールパイプに合金製のカムロブ(カムの山になる部分)を焼結する技法で造る。

日本ピストンリングが量産するエンジン用カムシャフト
日本ピストンリングが量産するエンジン用カムシャフト
吸排気バルブを開閉させる役割を担うカムロブ(カム山)は、金属粉を焼結して造る。(写真:日経Automotive)
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 エンジン技術の活用策を模索するのはリケンや日本ピストンリングだけではない。