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 データセンターの冷却システムがクラウドサービスのアキレスけんに――。2022年7月、英国でこうした事態が発生した。記録的な熱波による温度上昇でデータセンター内の空調機器が故障し、米Google(グーグル)や米Oracle(オラクル)のクラウドサービスが一時的に利用できなくなった。

 大量のサーバーが発する膨大な熱にどう立ち向かうかは安定的なデータセンター運用、クラウド運用の要。加えて、データセンターの稼働に伴う温暖化ガスの排出量を抑える「データセンター脱炭素」も、世界で関心の的になっている。より効率的な冷却技術を取り入れたデータセンターの整備は喫緊の課題だ。

若干の改造で液浸方式対応サーバーに

 こうしたなか、NTTコミュニケーションズは2022年7月28日、東京近郊にある共創拠点「Nexcenter Lab」において、データセンターでの利用を想定した次世代のサーバー冷却技術を報道公開した。目玉の1つは、冷却液を満たした容器にサーバーを丸ごと沈めてプロセッサーなどを冷やす「液浸方式」の冷却システムだ。

NTTコミュニケーションズが共創拠点「Nexcenter Lab」で検証している液浸方式の冷却システム
NTTコミュニケーションズが共創拠点「Nexcenter Lab」で検証している液浸方式の冷却システム
(撮影:日経クロステック)
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 容器をのぞくと、少し黄色がかった透明の液体の中で静かに稼働するサーバーがあった。「冷却液は触っても無害。粘度の低い自動車のエンジンオイルのようにさらさらとした手触りだ」。同社の松林修プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部担当部長/データセンタープロダクトオーナーはこう説明する。

冷却液を満たしたラックの中で稼働するサーバー
冷却液を満たしたラックの中で稼働するサーバー
(撮影:日経クロステック)
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 冷却液の正体は絶縁性のあるオイル。その中に沈めるには専用のサーバーが必要になりそうだが、実は電源ファンやケースファンを取り外し、CPUとヒートシンクの間の熱伝導材を交換すれば汎用的なサーバーが使えるという。

冷却液に浸すのでサーバーのファン類は取り外してある
冷却液に浸すのでサーバーのファン類は取り外してある
(撮影:日経クロステック)
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 同社の液浸方式では、サーバーの熱で暖まった冷却液を熱交換器に送って冷まし、再び容器に戻している。熱交換器には冷水を常時供給し、熱を吸収する仕組みだ。日本フォームサービスや日比谷総合設備と共同で、2020年から液浸冷却技術を実環境で検証してきた。

 そもそも冷却液でサーバーを冷やすのは、空調機器の冷気で冷やす従来の方式に比べて冷却効果が大きく、電力利用効率を高められるからだ。データセンターで採用すれば消費電力量を削減したり、サーバーの設置密度を高めたりしやすい。

 データセンター業界には「PUE」と呼ぶ指標がある。データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値で、空調装置などIT機器以外の消費電力が少ないほどPUEの値は小さくなる。理論上の最小値は「1.0」だ。

 2000年代まで日本のデータセンターはPUEが「2」以上、つまりサーバーなどIT機器よりも空調装置などの方が多くの電力を消費するケースが少なくなかった。一方でNTTコミュニケーションズの液浸方式のPUEはNexcenter Labの実証環境で「1.17」だという。同社は最高水準である「1.07」の達成も視野に入れる。

 液浸のメリットはまだある。冷却液の中は温度や湿度の変化が少なく、ほこりとも無縁だ。結果としてサーバーの故障率を低下させる効果も期待できるわけだ。