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 「5カ月もかけてこの調査内容とは、あきれて物が言えない」、「調査が甘過ぎる」──。日野自動車が起こしたディーゼルエンジン(以下、エンジン)の排出ガスおよび燃費不正に関する特別調査委員会(以下、調査委員会)が、2022年8月2日に調査報告書(以下、報告書)を公表した(図1)。その内容について、トヨタ自動車の関係者(以下、関係者)およびエンジンの専門家(以下、専門家)の評価は辛口だ。その理由は、調査委員会が真因(問題を引き起こした本当の原因)を見抜けていない点にある。

図1 日野自動車のエンジン不正に関する調査報告書
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図1 日野自動車のエンジン不正に関する調査報告書
299ページもあるが、エンジン設計部の技術力不足に関する記述はない。(写真:日経クロステック)

 不正に手を染めたのはパワートレーン実験部であり、縦割りの社風のために他の部門は不正を認識していない。そのため、パワートレーン実験部が不正を隠蔽し、継続し続けた、というのが調査委員会の分析だ(図2)。

 報告書にはこうある。「排出ガスを偽る行為は、主として、パワートレーン実験部が行っていた劣化耐久試験において発生した。しかしながら、車両CE(チーフエンジニア)も、エンジンCEも、エンジン主査も、総じて劣化耐久試験についてほぼ理解していない。(中略)業務内容が分からないために、パワートレーン実験部に丸投げしていた」、「燃費不正を偽る行為は、エンジン設計部などの管理職が、(中略)技術的な裏付けを全く無視して、燃費改善を安請け合いし、(中略)パワートレーン実験部の担当者にその責任を丸投げしていた結果生じた問題である」と。

図2 調査委員会の委員長と委員
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図2 調査委員会の委員長と委員
中央が委員長の榊原一夫氏。(写真:日経クロステック)

 だが、本来はパワートレーン実験部には不正を行う動機がない。同部の業務はエンジンの性能を試験し、その結果が規制や設計目標値に達しているか否かを確認することだからだ。未達なら、その事実をエンジン設計部に伝えればよい。

 結論から言えば、日野自動車のエンジン不正を招いたのは「エンジン設計部」のはずだ。そして、その真因は「技術力不足」にある。

10種類もの不正を重ねた訳

 そのことは、調査で明らかになった不正の手練手管に如実に表れている。排出ガス不正において、日野自動車はエンジンの認証試験である排出ガス性能の「劣化耐久試験」で不正を行った。ここでパワートレーン実験部が繰り出した不正は10種類もある(図3)。これらについて関係者は「規制値を無理やりクリアするために、考えられるありとあらゆる不正を行っている」と指摘する。

図3 劣化耐久試験において日野自動車が手を染めた不正
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図3 劣化耐久試験において日野自動車が手を染めた不正
10種類もある。同試験を開始した平成15年排出ガス規制(E6規制)以降、不正が続いている。E6規制の時は8種類の不正を重ねており、当初からエンジン設計部の技術力が不足していたことが分かる。現行のE9規制でも小型エンジン「N04C(HC-SCR)」以外は、種類は減ったが不正は依然として続いている。(出所:日野自動車の資料を基に日経クロステックが作成)

 なぜ、ここまで多くの不正を繰り出したのか。エンジンの設計において技術力が不足していることは明らかだ。「技術力が備わっているのなら規制を満たせるのだから、そもそも不正など起こりようがない」(専門家)。

 日野自動車が劣化耐久試験を初めて取り入れたのは、2003年に適用が開始された平成15年排出ガス規制(E6規制)のタイミングだ。ここでパワートレーン実験部は8種類の不正を重ねて規制をクリアしたと偽った。以降、2005年に適用開始の平成17年排出ガス規制(E7規制)でも、2009年に適用開始の平成21年排出ガス規制(E8規制)でも8種類の不正を行っている。そして、現行の規制、すなわち2016年に適用開始の平成28年排出ガス規制(E9規制)においてさえ、小型エンジンから大型エンジンまで1~4種類の不正を行っている。

 つまり、劣化耐久試験を開始したE6規制以降、日野自動車では不正が続いているということだ。これは一体どういうことか。