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「技術があるという根拠のない盲信」という社員の声

 ところが、299ページに及ぶ報告書に目を通しても、どこにもエンジン設計部の技術力不足に対する言及はない。2022年8月2日に調査委員会と日野自動車が開いた会見において、「真因は技術力の不足ではないか」と問うた筆者に、調査委員会の委員は「技術力がないわけではなく、開発プロセスでありマネジメントの問題である」と回答した。

図6 会見に臨んだ小木曽社長
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図6 会見に臨んだ小木曽社長
日野自動車には一定の技術力があると語った。(写真:日経クロステック)

 日野自動車の小木曽聡社長にも同じ質問をしたところ、「80年の歴史の中でエンジンに関する技術力は一定レベルある」「不正行為と技術力は違う」「(技術開発で)失敗したときにルールを破って不正をしていいかといえば、全く違う」「パワートレーン実験部で問題が閉じ込められており、日程がうまくいかないことが起きたときに日程を変えるとか、正直に役員や上司に報告を上げられなかったことが、直接の関与はないとはいえ経営として大きな責任だったのではないか」などと回答した(図6)。

 これらの回答について専門家は、「顧客が望む製品を造るために必要な全ての要素、すなわち開発プロセスやチェック体制、コスト競争力、開発リードタイムなどを含めて技術力だ」と指摘する。そもそも十分な技術力がない上に、開発プロセスやマネジメントだけを整えても「砂上の楼閣」だろう。事実、現行の規制もクリアできずに不正に手を染め、国内市場向けについて小型エンジン「N04C(HC-SCR)」以外の全てのエンジンが出荷停止に陥っている今、なぜ日野自動車に技術力があるなどと言えるのか。

 調査委員会が実施したアンケートに、ある社員はこう答えている。「心情的には寂しいが、日野には技術があるという根拠のない盲信(妄信)や、自前主義を捨てて客観的に自分たちの力量やリスクを判断しないといけない」(報告書)と。果たして、調査委員会、そして小木曽社長に日野自動車の「本当の姿」は見えているのか。見えていないのであれば、20年近く続いて日野自動車にこびりついた不正体質および隠蔽体質を改善することはできないだろう。