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ものづくり企業からはことごとくお断り

 機械やものづくりの知識については、巳野・福原の両氏ともネット検索して身に付けていったという。

 「最初は、アクチュエーターについて調べたが、コンプレッサーによる油圧式や人工筋肉など、さまざまな技術がたくさん出てきた。しかし、それぞれのメリットが何か、自分たちが実現したい機構に合っているものがどれなのか見当をつけられなかった」(巳野氏)。それでも、地道に情報を調べる中で、「ボールねじ」の存在を初めて知り、その仕組みが自分たちの考えているバーベルの昇降アシスト機構に適していそうだと考えたという。

 巳野氏は、ボールねじを使う想定で装置の概略図を描き、スタートアップ支援の実績がありそうなものづくり企業や、行政のスタートアップ支援サービスをネットで検索。片っ端から電話やメールで問い合わせた。しかし、ことごとく相談を断られた。

 そんな中、1人だけ耳を傾けてくれたのが、KITEイメージ・テクノロジーズ(東京・葛飾)代表取締役の古川拓氏だ。同氏は、ハードウエアスタートアップと、葛飾区・足立区内のものづくり企業(工場)とをつなぎ、ものづくりビジネスの立ち上げを支援する「TOKYO町工場HUB」を展開している。

 その古川氏が「ぴったりの人がいる」と小川製作所(東京・葛飾)取締役の小川真由氏を紹介してくれた。同社は金属加工を得意としており、現在はTOKYO町工場HUBのキーパートナーとして活動を支えている。巳野氏は2018年8月に小川製作所を訪問。小川氏に、ボールねじを使用したバーベルの昇降アシスト機構について相談すると「造りますよ」と快諾してくれた。まだアイデアを温めている段階で、ONE SLASH ONEを立ち上げてもいなかった時期だ。ただし条件があった。

「大失敗だった」試作1号機

 「この構想通りに設計を進めて製作します。でも動作できるかは保証しません。造った実機を納めたら、実費だけ請求します」と小川氏。巳野氏は、「ぜひお願いします」と答えた。他社では「数千万円はかかる」と断られ続けたところ、小川氏は動作保証なしの実費請求を条件とし、数百万円程度で引き受けてくれた。巳野氏は「数百万円程度なら、自己資金でどうにかなる」と考えた。

 そうして試作1号機は出来上がった。ところが案の定、思ったようには動かず、「大失敗だった」(巳野氏)。そもそも、当時は巳野氏も福原氏も「トルク制御」や「位置速度制御」をよく理解していなかった。適度な速度と力加減の制御が肝となるフィットネスマシンでは重要な考え方なのにもかかわらず、だ。

 それでもひとまず実機を造った点は奏功した。巳野氏は弁理士資格を持つ弁護士に、試作1号機の実機を見てもらいながら自分のアイデアを説明。特許化できそうな点を相談した上で、特許を出願申請した*1

* 相談したのは、内田・鮫島法律事務所の弁護士・弁理士である鮫島正洋氏。

 特許出願が呼び水になったのか、その後の資金調達はスムーズに進んだという。動作はしないものの、実機がある点もプレゼンテーションに説得力を持たせたのだろう。2020年に「東京都次世代イノベーション創出プロダクト」に採択され、2021年3月には、特許出願した「スマートパワーラック機構」も無事に特許査定が下った。新たに確保した資金で、新たな協力者への依頼や開発メンバーの増強も可能になった。

 懸案の制御については、小川氏から電装設計を得意とする企業を紹介してもらったり、ファクトリーオートメーションを研究する大学の研究室に協力してもらったりして、ついにアシスト制御システムを搭載した試作2号機の完成にこぎ着けた。

試作2号機と巳野氏
試作2号機と巳野氏
(出所:小林 由美)
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