全3712文字
PR

 ハードウエア系のスタートアップの中には、創業者やコアメンバーがメーカー出身ではなく、設計・製造の知識を持ち合わせないまま創業する企業も少なくない。そのため、せっかく良いアイデアを持っていても、製品を具現化し上市するための試作や量産段階でつまずくスタートアップも多い。

 外注するという手もあるが、実績がなく、ものづくりの知見に欠ける依頼主から試作を請け負うのは、ものづくり企業にとって投資回収の面で大きなリスクとなり得る。そのため、スタートアップが相談してもしばしば門前払いをくらう。

 こうした課題をうまく乗り越えているのが、巳野聡央氏が率いるハードウエアスタートアップのONE SLASH ONE(東京・渋谷)だ。

ONE SLASH ONE代表取締役の巳野聡央氏
ONE SLASH ONE代表取締役の巳野聡央氏
(写真:小林 由美)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社が開発中の無人個室ジム「1/workout(ワンスラッシュワークアウト)」のトレーニングマシンは、ユーザー個人の体格や身体能力などに最適化した筋力アップトレーニングプランを人工知能(AI)が自動で生成する。負荷やランニングマシンのスピードなども自動で設定される仕組みだ。トレーニングの際にはトレーナーが付かず、ユーザーはマシンのガイダンスに従ってトレーニングプログラムをこなす。プロやアマのスポーツ選手だけではなく、一般の人の健康管理や身体づくりにも利用してもらうため、従来のパーソナルジムよりも安価にサービス提供する予定という。

 巳野氏は、米Googleの日本法人であるグーグル(東京・渋谷)で9年間にわたりマーケティングやITサービス開発に携わった後、同社を2018年に退職。設計・製造の経験が一切なく、“ものづくりの知識ゼロ”の状態だったが、他者の手を借りながら開発を進め、個室で使用するトレーニングマシンの試作機を完成させた。2022年5月9日には、累計2億円の調達にも成功し、開発中の実機を初公開した。

 取材時の2022年7月時点では量産試作を進めており、2022年末には同社が経営するパイロット店舗での試験稼働を行う予定だ。2023年以降には店舗数を増やして本稼働させる。

ONE SLASH ONEに置いてあるフィットネスマシンの試作2号機
ONE SLASH ONEに置いてあるフィットネスマシンの試作2号機
(出所:小林 由美)
[画像のクリックで拡大表示]
今後の開発について(画像:ONE SLASH ONEのWebサイトから)
今後の開発について(画像:ONE SLASH ONEのWebサイトから)
[画像のクリックで拡大表示]

良質なフィットネスサービスを、誰もが使える価格で

 巳野氏はフィットネス業界にいたわけでもなく、プロを目指すべくスポーツを積極的にやっていたわけでもない。しかし、グーグル退職後に、さまざまなビジネスを模索する中で、「AIを利用して、良質なフィットネスサービスを、誰もが使える価格で提供すればビジネスになる」と考えた。その背景にはグーグル勤務時代に、ウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)という概念や健康管理に興味を持ち、フィットネスジムに通い始めた経験があった。それをきっかけに無人個室ジムのアイデアをまとめ、2018年末にONE SLASH ONEを設立した。

 そのタイミングで開発メンバーとして参加したのが、巳野氏の大学時代の先輩でエンジニアの福原義久氏だ。機械学習やニューラルネットワークに精通した福原氏は、巳野氏に誘われて開発に加わった。AIのアルゴリズムや、そこで採用するフィットネス理論の検討、サービスやビジネスのコンセプト設計は、2人の知見で何ら問題なく進められた。

 しかし、開発に着手した当初は、ものづくりの知見のなさがネックとなり、相談を持ち掛けたものづくり企業などから「門前払い」の洗礼を受けた。

ONE SLASH ONE取締役の福原義久氏
ONE SLASH ONE取締役の福原義久氏
(写真:小林 由美)
[画像のクリックで拡大表示]