VC(ベンチャーキャピタル)大手のジャフコ グループが起業家予備軍と企業を橋渡ししてのスタートアップ振興支援に乗り出す。経済産業省が主導する「EIR(アントレプレナー・イン・レジデンス、客員起業家)」と呼ぶ制度を活用し、起業を目指す個人と新規事業創出を望む企業をマッチングする。
起業家予備軍は業務委託の形でジャフコで働き、ジャフコが出資する企業と連携しながら、新規事業創出プロジェクトなどに従事できるため、リスクを抑えつつ起業を目指せる。ジャフコが取り組む「EIR」は、起業へのハードルを下げてスタートアップの裾野を広げる「ゆりかご」となるか。
ジャフコは2022年8月2日、経産省が実施する「客員起業家(EIR)の活用に係る実証事業」の実証事業者として採択されたと発表した。EIRとは起業増加とオープンイノベーション促進を両立するための仕組み。新規事業創出を目指す事業会社が、起業家予備軍の個人を客員起業家(EIR)として迎え入れ、共同で新たな事業の開発を目指す。起業家予備軍は直接または間接の雇用や業務委託といった形態で、事業会社の社員として働く。
経産省は2022年5月~2023年2月の期間で実証事業に取り組む。同事業の採択企業に対して、事業1件当たり1200万円といった委託金を支払う。
ジャフコは同事業を通じて起業家予備軍と業務委託契約を締結する。起業家予備軍はジャフコのEIR社員として、ジャフコが出資する企業と連携して新規事業創出プロジェクトに参加する。EIR社員はプロジェクトの中で自身のアイデアや技術を試したりジャフコの投資家から助言を得たりして、起業の準備を進められる。
成算があると判断したらEIR社員はプロジェクトの事業を担うスタートアップを起業し、ジャフコは内容に応じて出資を検討する。ジャフコはほかにも販路の開拓や顧客の紹介、事業の適法性に関するチェックなど、資金面以外の支援も提供する。投資先の企業はEIR社員が興したスタートアップとともに新規事業に乗り出せる。
EIR社員として働く起業家予備軍にとっては、「起業準備期間のセーフティーネット」(ジャフコ)を得られるメリットがある。EIR社員はジャフコの社員として給与を得ながら起業を準備できる。
一般に安定した収入を失う恐れや失敗した際の再就職が難しいといった理由から、日本では会社員が独立して起業を目指すといったケースが少ないとされる。日本政策金融公庫の2019年度の調査によれば、起業に関心がある層が考える失敗したときのリスクとして、事業に投下した資金を失う(82.5%)に続き、借金や個人保証を抱える(76.8%)、安定した収入を失う(69.1%)といった回答が上位だった。