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 日野自動車のエンジン不正が海外で訴訟問題に発展した。同社のトラックを購入もしくは賃借していた米国の物流企業などが、日野自動車とその親会社であるトヨタ自動車を相手取って、2022年8月5日(現地時間)にクラスアクション(集団訴訟)を起こした。原告である米国企業側は、損害賠償と懲罰的賠償、売買契約の取り消しなどを日野自動車とトヨタ自動車に求めている(図1)。

図1 米国で集団訴訟を起こされた日野自動車
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図1 米国で集団訴訟を起こされた日野自動車
エンジン開発の不正問題が海外に飛び火した。訴状には損害賠償のほか、「懲罰的賠償」の文字まで見える。一方で、日野自動車のエンジン開発プロセスには、排出ガス性能にとって重要な「触媒の仕様」を設計前に決める専門部署が見当たらないことが分かった。(イラスト:穐山 里実)

 訴状には、請求額が「裁判管轄の基準額である500万米ドル(6億6500万円、1米ドル=133円換算)を超える」(日野自動車)とあるが、懲罰的賠償が含まれていることもあり、最終的な賠償額がいくらになるのかは不明だ(図2)。同社は「業績への影響を合理的に算定することは困難」とみている。だが、どう見ても日野自動車には分が悪い。特別調査委員会(以下、調査委員会)の調査により、同社は20年近くにわたってディーゼルエンジン(以下、エンジン)の排出ガスおよび燃費不正に手を染めていた事実が判明しているからだ。

 今後、日野自動車は日本における型式指定の再取得やユーザーへの補償などの業務と同時に、米国での訴訟対応にまで追われることになる。まさに“泣き面に蜂”の状態だが、日経クロステックの調べにより、さらに重大な欠陥が見つかった。排出ガスを浄化する「触媒の仕様の設計要件(以下、触媒の仕様)」について、責任を持って決める担当部署が日野自動車には見当たらないことが分かったのだ。

 調査委員会による調査報告書(以下、報告書)で明らかになった日野自動車のエンジン開発プロセスと、取材に基づくトヨタ自動車のそれとを比較して判明した。このままでは日野自動車はエンジン不正を撲滅できない恐れがある。

図2 米国で集団訴訟を起こされた日野自動車
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図2 米国で集団訴訟を起こされた日野自動車
エンジン開発の不正問題が海外に飛び火した。写真は日野自動車が発表したプレスリリース。(出所:日経クロステック)

適合部門が触媒の仕様を決めるトヨタ

 エンジン開発プロセスについては、やはり、日野自動車とトヨタ自動車とで別物であることが明らかになった。日野自動車は2001年にトヨタ自動車の子会社となった。以降、日野自動車の社長ポストはトヨタ自動車の「天下り先」となってきた。これにより、経営にはトヨタ流が注入されたものの、エンジン開発プロセスについては見直されずに、日野自動車は従来通り独自のやり方を続けていた。

 実際、「トヨタ自動車のエンジンシステム部門から日野自動車には誰も出向していない」「ダイハツ工業にはトヨタ自動車からの出向者がおり、ダイハツ工業はトヨタ自動車と似たようなエンジン開発プロセスを持っている」といった声がトヨタ自動車の関係者(以下、関係者)からは聞こえてくる。併せて、トヨタ自動車がエンジン開発プロセスに織り込んでいる「不正ができない仕組み」を知らないために、「日野自動車は何が間違っていたのかを理解できていない可能性すらある」とエンジンの専門家(以下、専門家)は指摘する。

 トヨタ自動車において、エンジン開発における適合業務を行うのは適合部門だ。これが日野自動車のパワートレーン実験部に相当する。だが、トヨタ自動車の適合部門とパワートレーン実験部とでは大きな役割(機能)の違いがある。

 それは、適合部門が触媒の仕様を決定する責任を担っている点だ。

* 適合業務 排出ガスや燃費などの性能が設計目標値を満たすように電子制御ユニット(ECU)の制御(ソフトウエア)などで調整する作業のこと。