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 ポンプの老舗メーカーである荏原が、新卒採用にAI(人工知能)を導入した。エントリーシートの内容や面接時のやり取りなどをAIが分析し、応募者を16の人材タイプに分類することで、採用の判断材料の1つにする。従来の人材採用における偏りを是正し、多様な人材を獲得するのが狙いだ。

 2022年4月に入社する従業員を対象に、採用AIの導入を始めた。エントリーシートの内容に加えて、面接の様子を録画した動画データからは、応募者が質問に対して答えた内容だけでなく、顔の表情なども分析する。例えば、質問に対して怖い表情や優しい表情などを示したかどうかで、応募者の性格のタイプなどを予測する。様々なデータを総合的に判断し、応募者を16の人材タイプのどれかに分類して、採用の判断材料にする。

荏原が導入した採用AIの概要
荏原が導入した採用AIの概要
荏原の資料を参考に日経クロステック作成
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 同社は採用担当者による経験や勘に頼った選考方法について、採用する人材に偏りが生じているのではないかとの問題意識を持っていた。「人は同質の人を好んでしまう」(荏原の三隅光グループ経営戦略・人事統括部HR-techシニアデータサイエンティスト、取材当時)との傾向があるためだ。応募者の人材タイプをAIが分類することで、特定の人材タイプに偏らない多様な人材の獲得を目指す。

従来とは異なるタイプの人材を採用する結果に

 採用AIはまず2021年に行った2022年4月入社予定者の採用活動において、トライアル的に導入した。採用AIを導入したところ、従来は採用しなかったようなタイプの人材、例えば挑戦的な人材の採用が増えたという。

 「従来とは全く異なるタイプの人材が採用されたことから、新人研修などをお願いしている外部の講師からは『新人の傾向がこれまでとは全然違う』と評価された」と三隅氏は手応えを語る。2023年4月入社予定者の採用活動では、「データの相関はあるという仮説に基づいて、機械の力を加えていく活動に入った」。荏原の佐藤誉司執行役人事統括部長はそう語る。

 採用AIのアルゴリズムは荏原が自社開発し、人間が選考ルールを考案するルールベースのAIと、過去の採用データから選考ルールを機械が見いだす機械学習ベースのAIの両方を採用した。プログラミング言語にはPythonを、採用AIの稼働環境にはパブリッククラウドのAmazon Web Services(AWS)を採用した。

 新卒採用にAIは導入できたが、中途入社の採用への導入についてはまだ検討中だ。中途入社は即戦力の人材を求めているため、実績やスキルといった新卒採用時とは異なる評価項目で人材を評価する必要があるためだ。アルゴリズムは同じものを活用できても、評価項目などを調整する労力がかかるし、採用AIが分類した人材タイプが部署に必要かどうかを見極めるのも難しい。

採用AIを導入する際に気を付けるべきポイント

 荏原では効果があった採用AIだが、実際に導入する際には注意すべき点がある。それは法令順守(コンプライアンス)の視点だ。ITと法律の問題について詳しい九州大学の成原慧法学研究院・法学部准教授は「採用AIを導入する際には、個人情報保護法と職業安定法に注意する必要がある」と指摘する。