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 東武鉄道が鉄道事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。その基盤としてフル活用しているのが、走行中の車両から運転速度や乗車率など車上データを取得するIoT(インターネット・オブ・シングズ)システム「Remote」だ。最適な運転による消費電力の削減や、需要に応じた減車の決断にもIoTで収集したデータが生きた。乗客へのサービス品質低下を回避しつつ鉄道事業の採算性を高め、新型コロナウイルス禍による乗客の減少や電力費の高騰といった逆風が続くなかでも公共交通の維持を図っていく。

 Remoteでは、車両の運行に不可欠な機器類や車内などに取り付けた複数種のセンサーからデータをリアルタイムで収集する。例えば車体を支える台車には、空気バネにかかる圧力を計測するセンサーを装着している。空気バネの圧力は乗客が多いと高くなり、少ないと低くなる。これを基にして乗車率を把握している。他にも列車の速度、架線の電圧、加速の仕方を調整するノッチの値、車内の温度、そして運行に必要な機器類の動作状態などのデータを取得している。

Remoteシステムの概要
Remoteシステムの概要
(東武鉄道の資料を参考に日経クロステック作成)
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 車内にはドア上部のサイネージへの広告配信などに使われる無線LANがあり、センサーから取得したデータはこの無線LANを通り、車端部の制御装置に集められる。ここからKDDIの通信回線を経由し、クラウド上にある三菱電機のIoTプラットフォーム「INFOPRISM」に集約。本社や車両基地、指令所などから各車両のデータを常時確認できる。

車上データ管理システム画面。どこの駅に止まっているのか、ドアの開閉、電圧などが監視できる
車上データ管理システム画面。どこの駅に止まっているのか、ドアの開閉、電圧などが監視できる
(出所:東武鉄道)
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 Remoteの源流は1997年、当時最新鋭だった30000系車両に搭載した車上データ監視装置だ。ただ当時はIoTもビッグデータも普及するはるか前の段階だ。集めたデータは車両の点検・整備などの際に車両から取得する必要があり、用途も車両故障の原因追究などがメインだった。

 リアルタイムに各車両のデータを集約して分析するといった、現在のRemoteにつながる機運が高まってきたのはIoTやビッグデータが広がりつつあった2010年代前半だ。具体的なプロジェクトとして動き出したのは2016年。鉄道車両メーカーとして取引がある日立製作所の先端研究部門から声をかけられ、共同開発に乗り出したのがきっかけという。「従来のメンテナンスの考え方にとどまらず、車上データを集めると何ができるのか。運輸や施設、営業、計画投資など関係部門の社員を集めてワークショップを開き、現場の課題を抽出しながら発想していった」(東武鉄道の今村憲司鉄道事業本部車両企画課長)。

 実際のデータを取得して試してみようと、2016年に東武アーバンパークライン(野田線)向けの60000系車両1編成に、取得したデータをリアルタイムで送信できる車上データ監視装置を試験導入。その後搭載車両を徐々に増やし、2020年からは東武スカイツリーライン(伊勢崎線)から東京メトロ日比谷線に直通する70000系車両にも搭載。翌2021年に70000系の全24編成へ搭載完了したのに合わせ、Remoteを本格運用へ移行した。