全3270文字
PR

 精密小型モーターに代わる新たな成長源──。電気自動車(EV)用駆動モジュールである電動アクスル「E-Axle」事業を、日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)はこう捉えている(図1)。口さがないメディアから「老害」と罵られてまでも関潤社長兼最高執行責任者(COO)の更迭を断行したのは、このためだと言っても過言ではない。

図1 電動アクスルと永守会長
[画像のクリックで拡大表示]
図1 電動アクスルと永守会長
電動アクスルを次の日本電産の成長源として世界のトップシェアを狙う。(出所:日経クロステック)

 関氏に足りなかったのは、電動アクスル事業を進めるスピードだ。永守会長は電動アクスルで精密小型モーターと同じく「断トツの世界一」を狙っている。そのために「勝利の方程式」まで用意済みだ。この方程式を解く鍵は、圧倒的なスピードである。電動アクスル事業を含む車載事業を2四半期連続で赤字にした関氏にはそのスピードで事業を進める能力がないとみて、「社長失格」の烙印(らくいん)を永守会長は押したのだ。

2025年度に圧倒的なシェアを奪う

 日本電産は、2030年度に世界で1000万台/年の電動アクスルを販売する目標を掲げる。独自の市場分析から永守会長は2025年度に「分水嶺」がやってくると見る(図2)。この年を境に、EVの販売台数が飛躍的に伸びると捉えているのだ。電動アクスルビジネスの勝負は、この分水嶺である2025年度で決まる。そのために、日本電産は誰よりも早く駆け出した。

図2 2025年度は「分水嶺」
[画像のクリックで拡大表示]
図2 2025年度は「分水嶺」
この年を境にEVの需要が加速し、それに伴って電動アクスルの需要も急増するというのが永守会長の読み。(出所:日本電産の資料を基に日経クロステックが作成、電動アクスルのイラスト:穐山 里実)

 つまり、2025年度に電動アクスルで圧倒的な世界シェアを奪い、高い営業利益率を獲得するというのが、永守会長が狙う次の計画だ。そのための勝利の方程式の中身が、「全取り戦略」および「待ち受け戦略」である。

 全取り戦略とは、強力な営業力により、顕在的あるいは潜在的な顧客の需要を全て受注するというものだ。永守会長が営業部門に「多少無理でも全て受けろ」と号令を発したのはこのためである。

 実は、日本電産が現在販売している第1世代の電動アクスル(以下、第1世代)は赤字だ。1台売るごとに損失が出てしまう。だが、これも永守会長の緻密な計算のうち。第1世代の価格は、現時点で利益を取れる高い値付けではなく、将来的にここで落ち着くと永守会長が想定する市場価格を付けている。

 電動アクスルの競争は熾烈(しれつ)を極める。従って、時間の経過とともに市場価格は下がっていく。そこで、第1世代を数年先回りした市場想定価格で販売し、安値を打ち出してより多くの顧客を獲得する。こうして最初から大きなシェアを確保する。

 すると、調達においてボリュームディスカウント(量産効果)を効かせられる。同時に、並行して設計や生産技術分野の技術開発や工夫で原価低減を進める。こうして、抜群のコスト競争力を発揮してトップシェアを維持するというのが、全取り戦略の内容である。既に2022年4月末時点で、EVの最大市場である中国市場における日本電産の電動アクスルのシェアは27%。2位に13ポイントの差を付けてトップシェアの座にある。