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 軽量で小型な陽子線がん治療装置の開発が進んでいる。放射線医学総合研究所(現:量子科学技術研究開発機構)発スタートアップのビードットメディカル(東京・江戸川)が、2022年7月に新方式の陽子線がん治療装置を医療機器として承認申請した。これまで陽子線がん治療装置を導入するには3階建てビルほどの高さの部屋が必要で、限られた病院でしか治療できなかった。従来と比較して装置の質量を約10分の1、高さを約3分の1にすることで既存の部屋に導入しやすくなり、導入コストを抑えられるメリットがある(図1)。

図1 ビードットメディカルが開発し承認申請した陽子線治療装置
図1 ビードットメディカルが開発し承認申請した陽子線治療装置
従来装置の約3分の1の高さかつ約10分の1の質量としており、導入にかかるコストの低減が期待できる。(出所:ビードットメディカルの図を基に日経クロステックが作成)
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 陽子線がん治療は放射線治療の一種で、陽子を加速させて運動エネルギーを高めた陽子線を体外から照射してがん細胞にダメージを与える。X線などによる従来の放射線治療と比較して、がんに集中的な照射ができるため正常組織へのダメージを抑えられるとされている。

 従来の放射線治療で用いられるX線は、体表付近で放射線量が最も大きく、その後、減少しながらも体の深部に進んでいく。そのため、がん病巣の前後にある正常組織にもダメージを与えやすい。一方で陽子線は、体表からのある深さにおいて放射線量が最大になる特性を持つ。照射する陽子線のエネルギー量を調整することで、放射線量が最大となる位置をがん病巣に合わせることが可能だ。放射線量が最大になった後は深部に達しないため、がん病巣より後方にある正常組織へのダメージを大きく抑えられる。

 「特に患者が子供の場合は、正常組織へのダメージを抑えられるため陽子線治療を受けるメリットが大きい。他にも陽子線治療はX線治療と比較して短期間の照射で済む場合が多いので、社会生活と治療の両立がしやすく、AYA世代(15歳から30歳代の若年成人)や働き盛りの患者にも向いている」。そう話すのは国立がん研究センター東病院の副院長で放射線治療科長の秋元哲夫氏だ。

 こうしたメリットのある陽子線治療だが、日本で治療を受けられる病院は2022年4月時点で19施設にとどまっているのが現状だ。「普及を妨げている理由の1つは治療装置のサイズとコストだ」とビードットメディカル社長の古川卓司氏は話す。

 ビードットメディカルは、現在販売されている陽子線治療装置と比較して小型で低価格な装置の実用化を目指している。その具体的な成果が、今回承認申請した「高さ約3分の1、質量約10分の1」の装置だ。「専用の建屋を新設する必要がないので、導入費用は半分ほどになる見込みだ」(古川氏)。装置の維持費も従来と比較して半分程度になるという。