全2909文字

 電気自動車(EV)などの電動車両で、駆動用モーターの鉄心(コア)に使う材料の一部を従来の電磁鋼板から置き換えようとする動きが出てきた(図1)。モーターの高回転化によって増えるエネルギー損失を抑え、効率を高めるためだ。

図1 電磁鋼板を使った駆動用モーター
図1 電磁鋼板を使った駆動用モーター
ステーター(固定子)やローター(回転子)といったモーターのコアは、無方向性電磁鋼板を積層して造る(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 自動車メーカーは搭載性の高さを重視し、モーターの小型化への要求を強める。ただ、出力も犠牲にできない。これらへの対策として、モーターの高回転化が進んでいる。現行のEVでは、回転数が多いもので約2万rpmに達する。モーターの出力はトルクと回転数の積で決まり、トルクはモーターの体積に比例する。モーターを小型化しながら出力を高めるためには、高回転化が必要になる。

 モーターを高回転化するためには、回転数の増加に伴って増える鉄損を減らすことが不可欠だ。モーターコアを構成する電磁鋼板には、1枚ごとに厚さ方向に渦電流が流れる。電磁鋼板1枚が厚いほど渦電流による鉄損が大きくなるため、厚さを薄くして鉄損を減らすのが主流だ。

*モーターコアにおける磁束変化を原因とし、主に熱として発生する電力損失のこと。損失の大きさは、モーターの回転数の2乗に比例する。

 電動車両の駆動用モーターに使う電磁鋼板では、高回転化に伴い0.35mmから0.25mm程度まで薄板化が進んできた。ただ、2万rpmを超える高回転の領域ではさらに薄板化する必要があり、対応が難しくなるとの見方がある。

 こうした中、日立金属や東北大学発のベンチャー企業である東北マグネットインスティテュート(TMI)が、電磁鋼板に比べ鉄損を減らせるモーターコア用の材料を開発し、駆動用モーターでの実用化に挑んでいる。

日立金属がアモルファス合金を実用化へ

 採用に近づいているのが、日立金属だ。同社は鉄(Fe)を主成分とするアモルファス合金「Metglas(メトグラス)」を開発した(図2)。量産へ向けて「段階的な承認プロセスを経ながら、順調に進んでいる」(同社機能部材事業本部パワーエレクトロニクス統括部長の鈴木 勝氏)と話す。

図2 日立金属が開発したアモルファス合金「メトグラス」
図2 日立金属が開発したアモルファス合金「メトグラス」
約2万rpmの回転数まで対応可能という。同合金で電磁石を構成した場合、磁化の強さにあたる飽和磁束密度は1.63T(テスラ)で電磁鋼板の80%程度にとどまる。これは同合金にFe以外の材料も含まれるためという(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 同材料の最大の特徴は、鉄損を電磁鋼板の10分の1以下に減らせる点だ。構造と薄さに理由がある。

 通常の金属材料は結晶構造を取り、原子配列が規則的であるのに対し、アモルファス合金は原子配列に規則性がない(図3)。結晶構造を成す前に急速に冷却して固めるため「圧延せずに非常に薄く造れる」(日立金属技術開発本部グローバル技術革新センターでシニアアドバイザーを務める佐野博久氏)という。同合金は厚さの公称値が0.025mmで、これは駆動用モーターのコアに使う電磁鋼板の10分の1以下だ。

図3 アモルファス合金と通常の金属素材の構造イメージ
図3 アモルファス合金と通常の金属素材の構造イメージ
(出所:日立金属の資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、この薄さによって「開発当初は打ち抜きがうまくいかず、実用化のボトルネックになっていた」(鈴木氏)という。「打ち抜き加工にメドがついた」(同氏)ことが、実用化に近づいた理由の1つだ。これにより、アモルファス合金をステーター(固定子)のティース部のみに使う場合と、ステーター全体に使う場合のどちらにも、顧客の要望に合わせて対応できるようになった(図4)。

図4 ステーターへの適用を想定
図4 ステーターへの適用を想定
左はステーターのティース部のみをアモルファス合金で造った場合で、右はステーター全体をアモルファス合金で造った場合(出所:日立金属)
[画像のクリックで拡大表示]

 ステーター全体を同材料で造る場合、回転数8000rpmまでの領域における試作モーターでの実測試験の結果によると、高回転領域で電磁鋼板に比べ効率を約3%改善し、損失は半減できるという。8000rpmから2万rpmまでの領域については、シミュレーションで最大約8%の効率の改善を確認できた。モーターの出力と電池容量をそろえた場合、満充電での航続距離は効率の改善分だけ伸ばせることになる。

 主にステーターのコアで使うことを想定するが、ローター(回転子)でも「使える可能性はある」(鈴木氏)という。ただ、ローターは回転するため、機械的な強度や磁石との相性などの検討項目がステーターより増え、検証を経て実用化するには時間を要するとみている。