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アイシンや日本電産が注目するTMI

 TMIは2022年に入り、同社が開発したナノ結晶合金「NANOMET(ナノメット)」の駆動用モーターでの実用化へ向け、動きを加速している(図5)。

図5 TMIが開発した軟磁性材料「ナノメット」の薄帯(右)
図5 TMIが開発した軟磁性材料「ナノメット」の薄帯(右)
厚さは最大0.025mmで、日立金属のアモルファス合金とほぼ同じである(写真:日経クロステック)
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 同社はアルプスアルパインや村田製作所、パナソニックなどの出資で2015年に設立された東北大発のベンチャー企業。2022年4月にアイシンとモーターのコアに使うナノ結晶合金の共同開発を始め、同年5月に同社からの出資を受け入れた。アイシンはTMIの株式の16.7%を取得。筆頭株主の東北大学ベンチャーパートナーズに次ぐ、民間企業としては最大の株主となった。TMI社長の宮武孝之氏は「アイシンの意気込みを感じている」と語る。

 アイシンが見据えるのは、駆動用モーターとインバーター、ギアボックスを一体化した電動アクスルの次世代品への適用だ。駆動用モーターにTMIのナノ結晶合金を使うことで、走行時に発生する損失を低減し、モーターの高効率化を目指すとしている。あるアイシンの関係者は「(TMIのナノ結晶合金を使えば)モーターをかなり小型化できそうだ。駆動用以外の車載モーターへの適用も検討している」と同材料に期待を寄せる。

 EVの駆動用モーターや電動アクスルで覇権を狙う日本電産も、TMIのナノ結晶合金に注目する。電動アクスルの第3世代以降の製品で実用化を目指す誘導モーターの材料候補として、同材料を選んだ。同誘導モーターへの採用が決まれば、2030年以降に実用化される見通しだ。TMIはこのほかにも、ある国内自動車メーカーから同材料を使ったEVの駆動用モーターの開発打診を受けているという。

 TMIのナノ結晶合金はFeのアモルファス合金を部分的に結晶化させ、不規則に配向した強磁性を持つナノ結晶粒を、アモルファス相に分散させたものである(図6)。重量ベースで93%のFeで構成されるため、高回転領域での鉄損の少なさだけでなく、高い飽和磁束密度を実現している。

図6 TMIのナノ結晶材料の構造
図6 TMIのナノ結晶材料の構造
アモルファス相中に寸法10~20nmのナノ結晶粒が分散している。飽和磁束密度は最大1.80T(テスラ)で、日立金属のアモルファス合金よりやや大きい(画像:TMI)
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 これらの特徴により、試作モーターの試験結果によると、電磁鋼板を使う場合に比べて効率を9~10%改善できたという。飽和磁束密度の高さは、電磁鋼板製のモーターに比べ約25%の小型・軽量化に寄与した。TMIは、同材料をEVの駆動用モーターに適用した場合、満充電での航続距離は約10%伸ばせると予測する。

 実現できれば大きなブレークスルーになりそうだが、駆動用モーターへの適用、量産に向けては大きな課題もある。

 現在のTMIの生産設備、生産技術で製造できるナノ結晶合金の薄帯は、最大でも幅127mm。駆動用モーターのステーターコアを1度に打ち抜ける大きさではない。分割されたコアを組み合わせて、ステーターを造っているのが実情だ。分割コアは組み立てなどのため、量産時のコスト上昇につながる。

 宮武氏は「1枚で打ち抜いたものを積層して造れるようにしてほしいとの要望が、自動車メーカーから来ている」と明かす。駆動用モーターでの実用化には、薄帯を200~250mm程度の幅で製造できるようになる必要があるという。

 また、TMIは薄帯の生産を中国のメーカーに委託しており、供給不安がある。リスク軽減のため、国内を中心に委託生産先の拡大を目指している。