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 NTTは2022年9月12日、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、「世界最速ゼロバイアス動作(220GHz)を実現する『グラフェン光検出器』を開発。グラフェンにおける光-電気変換プロセスも解明した」と発表した。論文は2022年8月25日付けの英科学誌 Nature Photonics に掲載された。今回の開発で、第6世代移動通信システム(6G)か、それ以降で利用が見込まれている超高速光通信またはテラヘルツ(THz)波通信の実現に大きく近づいたといえる。

†グラフェンは炭素原子が蜂の巣状の網のように連なった原子1個分の厚みのいわゆる2次元材料。これが多数積層した物質が黒鉛で、鉛筆の芯にも使われている。

 6Gでは100Gビット/秒以上の帯域を備えた無線通信技術が想定されている。この技術分野の開発は日本が最先端を走っているものの、現時点ではまだわずかな通信距離でぎりぎり100Gビット/秒が実現できたという基礎研究段階で、しかも若干足踏み状態だ。

 例えば、2018年2月に東京工業大学 准教授の岡田健一氏の研究室と富士通研究所が105GHz以下の無線を用いて120Gビット/秒の無線通信技術を開発した。2018年6月に今度はNTTと東京工業大学が化合物半導体(InP-HEMT)ベースのトランシーバーで距離2.22mでの100Gビット/秒を実現した。2019年2月には、広島大学 教授の藤島実氏の研究室と情報通信研究機構(NICT)、パナソニックCMOSトランシーバーICで距離2.2cmの80Gビット/秒での通信を実現している。同グループは送信だけであれば、2017年2月に105Gビット/秒の送信用CMOSトランスミッターICを開発済みだが、受信機の性能がそれに追いついていない。

†InP-HEMT=インジウム燐(InP)高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor)。

 その理由はTHz波の高効率な受信/受光自体が容易ではなく、また受信してもそこから情報を取り出すのはもっと難しいからである。具体的には、THz波を電波として受信する場合、アンテナとして導波管を使うが、波長が短いために±数μmと非常に高い加工精度が求められる。

 一方、THz波を光として受光しようとしてもこれまではその技術がなかった。半導体のフォトダイオードは波長2μm以下の近赤外線までしか受光できない。現在のテラヘルツカメラに使われているボロメーターと呼ばれる受光素子は、赤外線やTHz波が熱に変わりその熱による電気抵抗値の変化で受光を検知するが、応答速度が数十Hzと遅い。

220Gビット/秒以上の受信が可能に

 今回のNTTの技術はこの課題を克服し、THz波~可視光領域の超高速無線通信における受信機の性能を大きく高める技術だ。具体的には、開発したグラフェン光検出器が3dB帯域220GHzで動作することを確認した(図1)。従来は70GHz動作止まりだった。ここで220GHzは、照射するレーザー光のオンオフの周波数で、データ伝送速度は少なくとも220Gビット/秒以上が実現可能になると考えられる。

図1 6G以降向け赤外線/THz波での通信帯域が大幅拡大へ
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図1 6G以降向け赤外線/THz波での通信帯域が大幅拡大へ
6Gまたはそれ以降の移動通信技術ではサブミリ波、またはテラヘルツ(THz)波と呼ばれる電磁波を用いて100Gビット/秒以上の高速通信を実現しようとしている。ところが、これまでは、その電磁波を受信/受光したうえでそこから情報を取り出す技術がなく、技術的な“空白域”があった。グラフェンを用いた光検出器でも70GHz動作どまり。NTTは今回初めて、220GHzで動作するグラフェン光検出器を開発した。これで受信/受光素子についてはこれまでの空白域が大きく埋まることになる(出所:日経クロステック)
†3dB帯域=出力電流値が3dB下がる周波数。