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 エレクトロニクスは、現代の驚異である。ポケットに入るスマートフォン(スマホ)は、スーパーコンピューターであり、音楽プレーヤーであり、多様な機能を備える。

 しかし、その製造には多種類の物質と労力を要する。タッチスクリーンをコーティングするインジウム、スピーカーを動かすネオジム、バッテリーに必要なリチウム─こうしたレアメタル(希少金属)を確保すべく、資源開発者たちは地球の果てまで探し求めてきた。組み立て工程ではさらに多くの労力が必要で、デバイス一つひとつの製造に膨大な水とエネルギーを使い、二酸化炭素(CO2)を排出する。

 一方で、私たちは電子機器を使い続けること、手入れすることに無関心だ。包丁の切れ味が鈍れば研磨するのに、なぜ電子製品のバッテリーが消耗しても交換しないのだろうか。答えは1つ、「できない」からだ。つい最近まで、スマホの大手メーカーは、メンテナンスに必要な修理マニュアルや交換用バッテリーなどの部品を提供していなかった。

 これこそ、我々が2003年に「iFixit」(アイフィックスイット)を立ち上げた理由でもある。米Apple(アップル、当時はアップルコンピュータ)は、各社のWindows搭載パソコンと異なり、修理に必要な部品やマニュアルを一般に提供していなかった。そこで我々はアップルに代わってユーザーが望むマニュアルや部品を提供すると同時に、製品の修理性に配慮するよう、同社に働きかけてきた。

 それから19年の年月をかけて、アップルを含む各社製品の寿命を延ばすべく代替エコシステムを体系的に構築した。ウェブサイト「iFixit.com」では、何万もの製品の修理ガイドを無料公開し、交換部品や修理道具を販売している。これらのリソースとグローバルに広がるコミュニティーにより、何億もの製品を破棄せず使い続けられるようにするなど、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に貢献してきた。

動き出した「修理する権利」

 ただし、世界中にある全ての製品を我々だけでリバースエンジニアリング(製品の分解・解析)ができるわけではない。そもそもアフターマーケットで入手できない部品も多い。

 こうした状況を打破しようと、所有者に「修理する権利」を取り戻すための運動が活発化している。欧州、米国25州、オーストラリア、カナダ、インドでは、メーカーに製品の耐用年数を延長させる法案が動き出した。

 実際、米国では電子機器などについての「修理する権利」に関する法律が相次いで制定されている。2022年6月、コロラド州で電動車椅子の修理に関する法律に知事が署名した。また、ニューヨーク州では、州内で販売される10米ドル以上の電子製品について、修理用部品、マニュアル、工具の提供を義務付けるという広範な法律が可決された。

 日本の電機メーカーの一部も、修理する権利に抵抗していると我々はみている。確かに、多くの電子機器に対して修理に配慮すべきだとの規制が加われば、そのインパクトは大きい。とはいえ、日本には伝統技法の「金継ぎ」が秘めるような「修理の美」に対する意識がある。こうした意識が独占禁止法や反消費運動と連動すれば、欧米での法規制対応にとどまらず、日本でも修理する権利は定着し得ると考えている。

 一方で、修理する権利で何が問題視されているのか、対応するとはどういうことなのか、具体的なイメージが浮かばないという読者もいるだろう。そこで、スマホの代表格であり、「修理したい」という要望を最も多く受けてきた機種であろう、アップルの「iPhone」を例に紹介する。今年で発売から15年を迎えるiPhoneの歴史を振り返れば、修理や電子機器のサステナビリティーに関する興味深い変遷を垣間見ることができる。

初代は修理不可

 アップルは全事業のサプライチェーンと製品ライフサイクルで2030年までにカーボンニュートラル達成を目指すとしている。2021年3月には世界中の部品メーカーなど110社以上が、アップル向け製品の製造に使用する電力の100%再生可能エネルギー化を進めると発表した。また、ノートパソコンやスマートウオッチなどで使用するアルミニウムに100%リサイクル材を使用している。

 こうした点から、アップルはサーキュラーエコノミーに積極的に取り組む企業と捉えている読者も少なくないだろう。だが、修理の観点からすると、こうしたイメージとは違った一面が見えてくる。

 iPhoneが登場した2007年当時、日本の携帯電話機の主流はテンキーキーボードと手で外せるバッテリーを搭載した、折り畳み式ガラケーだった。一方の初代iPhoneは黒く薄い板状だった。ツメもネジも内側に隠されており、外側に内部を開くための手がかりは見つからなかった。

2007年に登場した初代iPhoneは修理を拒むようなデザインだった。例えば正面パネルと背面パネルを固定するツメは、背面パネルを引き抜くと破損してしまう
2007年に登場した初代iPhoneは修理を拒むようなデザインだった。例えば正面パネルと背面パネルを固定するツメは、背面パネルを引き抜くと破損してしまう
(写真:iFixit)
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 我々の分解エンジニアは、継ぎ目を突くなど手探りで、背面パネルと前面パネルを固定するツメをようやく発見した。しかも、背面パネルを引き抜くとツメは変形してしまう。修理ガイドを作成するために、何度もやり直した結果、いくら経験や修理ガイドがあってもこのデバイスを破損せずに開くことは不可能に近い、という結論に至った。

 スマホの修理といえば、バッテリーや前面ガラス、ディスプレーの交換などが代表的だろう。バッテリー交換への第一歩はデバイス本体の開口だが、初代iPhoneはバッテリーが基板にはんだ付けされているという、別の大きなハードルがあった。さらに、液晶ディスプレーと前面ガラスが一体化しているため、個々の部品としてそれぞれ交換することはできなかった。

 2022年現在はこうした設計のスマホにも驚かないが、2007年当時は見たこともないものであり、修理する立場からはいら立ちを覚えざるを得なかった。

 我々からすると、アップルは長期間にわたり、技術的な理由からだけでなく、自社の利益のためにユーザーの手から修理を遠ざけてきたようにも見える。機器を修理するのではなく新製品の購入を促す「計画的陳腐化戦略」を採用してきた可能性もあると考えている。