技術者の獲得競争が激しさを増している。半導体製造装置メーカーのディスコは、約7年ぶりとなる大幅なベースアップ(ベア)に踏み切った。すでにトヨタ自動車やソニーグループといった各業界を代表する企業よりも高い給与水準を誇るディスコだが、成長の原動力となる技術者の確保に向けて給与アップで採用力を強化する。
ディスコは2022年7月、正社員や契約社員などを対象に基本給を一律2万円引き上げるベアを実施した。年収は平均で約20万円増える試算になる。社員還元を強化して労働意欲を高めるとともに、優秀な人材の採用にも結びつけたい考えだ。大企業では難しい大幅な賃上げや自由な働き方をアピールし、人材獲得を有利に進めていくという。
ディスコは好調な半導体装置需要を背景に、近年は日本経済新聞社が実施する「ボーナス調査」ランキングで常に上位に名前が挙がる“高給企業”だ。今回の賃上げ率は定期昇給と合わせると8.5%になる。人材獲得では同業の半導体製造装置メーカーだけでなく、国内の主力メーカーとも競合する関係にあるが、「2万円のベアができる企業は限られる」(ディスコ社長の関家一馬氏)と自信を見せる。
「シリコンサイクル」という言葉に代表される通り、好不況の変動が激しい半導体業界では高い基本給はリスクが高く、業績連動の賞与で社員還元する企業が多い。今回ディスコは賞与の原資の一部を基本給に振り分ける工夫で所得の変動を抑えつつ、不況時の固定費増のリスクも減らした。ベアを実施した経緯や狙いについて関家氏に聞いた。
大幅なベアを実施した経緯や狙いは何ですか。
これまで好業績時には業績連動の賞与で社員に報いてきた。従業員の要望もあったので基本給でも電機連合と同等のベアは毎年実施していた。ただ、大きなベアは繁閑の激しい業界のため固定費は上げるべきでないと判断していた。
一方、初任給を上げてリクルーティングを有利にしようと考える企業が出てくるなか、ディスコも何らかの施策が必要だと考えた。今回、閑散期でも固定費が上がらない方法を見つけたので、求人力を高めるためにベアを決断した。
具体的には賞与原資のうち固定部分の一部を基本給に振り分ける形をとった。これまでの給与ベースで比較すると、最近のような好業績時には平均年収は20万円アップし、業績が悪い時期でもトントン(微増)になる。したがって、今後の成長投資に何ら問題はない。
今回のベアは人材採用に効果がありそうでしょうか。
学生にとってあまたあるBtoBのテック系企業を全て調べることは難しい。ディスコはそこまで認知度が高くないので、就活で初めて知る学生もいるだろう。初任給が高額なら学生の目にとまりやすくなるだろう。ディスコには従業員が自由に働ける環境があるが、社内の良さを知ってもらうには相当調査しないと分からない。ディスコに興味を持ってもらうきっかけとして、初任給や福利厚生(社内プールなど)でもいいだろう。
東京大学や京都大学クラスの理系新卒学生は2000年が初めての入社だったが、近年は新卒採用の半数ぐらいが国立大学の学生だ。ディスコの業績や待遇の良さと、国内の半導体製造装置や材料の将来性から認知度が高まってきていると感じる。
ディスコで働く良さや強みは何ですか。
ディスコでは入社後でもあらゆる職種を経験できるので、本人の意思や目的に応じて選択して成長できる環境がある。ディスコは半導体や電子部品向けに「切る・削る・磨く(KKM)」ための加工装置を製造しているが、そのための手段は本人が自由に選べる。例えば、化学メーカーに就職すると有機材料などの専門領域をずっと担当することになるだろうが、ディスコではKKMのためならどんな材料を扱ってもいい。
同様にソフトエンジニアも組み込みソフトやWindows、Linuxなど本人の得意なものを選んで自由に開発できる。それを動機に転職してくる社員もいるぐらいだ。
ディスコが求めるのはどのような人材ですか。
ディスコの装置を製造するには幅広い専門が必要で、機械設計や電気設計、材料工学、ソフトウエア、化学、光学といった分野の人材が必要になる。KKMに特化した会社なので、結果を出せなければ「自分たちはエンジニアとしての存在意義がない」と真剣に向き合っている。やるなら全力で仕事に取り組む人に入社してほしい。自ら成長したい人にとっては良い環境が整っている。