電力需給ひっ迫を克服するために原子力発電所17基を再稼働する——。8月24日、岸田 文雄首相は国が再稼働を後押しする方針を示した。だが、電気事業連合会(電事連)は数年後に使用済み核燃料の置き場がなくなる、つまりは原発の稼働停止を暗示するデータを公開している。「再稼働で電力危機を克服」の危うさをひもときたい。

「停電よりは再稼働がいい」
岸田首相が示した再稼働拡大の方針に対し、SNS上では反発の声が上がる一方、「電力不足だから仕方ない」「停電は命の危険がある」「計画停電は二度と嫌だ」といった歓迎・安堵の声が広がっている。再稼働容認の姿勢は確実に浸透しており、8月末に公表された読売新聞の世論調査では、再稼働への賛成が58%、反対が39%と、2017年以後の調査で初めて賛成が反対を上回った。
再稼働受け入れの姿勢がこれだけ国民に広がったのは、電力需給がひっ迫していた東日本大震災の直後以来だ。ここ10年ほどの世論調査では、原発再稼働に「賛成3割、反対6割」と、反対が賛成を大きく上回るのが固定した傾向だった(図1)。しかし、再び電力需給がひっ迫し、需給ひっ迫注意報の発令や、節電の呼びかけが繰り返される中で、世論は大きく変化した。
「需給ひっ迫による停電を避けるためならば、再稼働も仕方ない」。これが多くの国民の本音ではないか。東京電力・福島第1原発の未曽有の事故を目の当たりにし、原子力への信頼が薄れていたとしても、電力不足と停電の弊害はあまりにも大きすぎる。両者をてんびんにかければ再稼働もやむなし、ということだろう。