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 日本の大手自動車メーカーがついに重い腰を上げた。トヨタ自動車とホンダはそれぞれ、電気自動車(EV)に次世代パワー半導体のSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)を本格採用する。これまで海外の自動車メーカーが積極的で、日本の自動車メーカーは慎重だった。トヨタ、ホンダの日系大手2社が採用したことで、「SiC市場1兆円」の道筋が見えてきた。

 トヨタは2022年発売予定の「レクサス」ブランドの新型EV「RZ」に、ホンダは2026年以降の発売を計画する中・大型EVにSiCパワー半導体素子(パワー素子)を採用する。いずれもモーターを駆動するインバーターに搭載する。これまで両社はSiCパワー素子を市販車に採用したことはあったが、対象は燃料電池車(FCV)の昇圧コンバーターと限定的だった。インバーターというパワートレーンの中核部分にSiCパワー素子を採用するのは初めてである。

レクサスブランドの新型EV「RZ」。画像はプロトタイプ(出所:トヨタ自動車)
レクサスブランドの新型EV「RZ」。画像はプロトタイプ(出所:トヨタ自動車)
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 SiCパワー素子の採用で先行していたのは海外勢だ。米Tesla(テスラ)はEV「Model 3」のインバーターにSiCパワー素子を採用。韓国Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)はEV専用プラットホーム「E-GMP(Electric-Global Modular Platform)」のインバーターで利用している。中国・上海蔚来汽車(NIO)も、EVへのSiCパワー素子の採用を始めたという。米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)も、サプライヤーとSiCパワー素子の長期供給契約を結んでいる。欧州の自動車メーカーもSiCパワー素子の採用に前向きとされる。

EVのインバーターにSiCパワー素子を採用した主な事例(出所:各社の発表に基づいて日経クロステックが作成)
EVのインバーターにSiCパワー素子を採用した主な事例(出所:各社の発表に基づいて日経クロステックが作成)
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 自動車メーカーがSiCパワー素子に関心を寄せるのは、現行のSiパワー素子に比べて電力損失を大幅に削減できるからである。これにより、インバーターのような電力変換器を小型化できる。インバーターに適用した場合、低損失であることから航続距離を延ばせる。一般に、Siパワー素子からSiCパワー素子に置き換えることで、5~10%の電費改善効果を見込める。

 電動車両にうってつけの特性だが、SiCパワー素子のコストはSiパワー素子の数倍と高い。そのため、現在は高価格帯EVでの採用が中心である。ただし、低損失性を生かすと駆動システム全体のコスト削減につながるケースがある。例えば、同じ航続距離ならインバーターを低損失にできる分、車載2次電池(バッテリー)の容量を小さくできるのでシステムコストの削減につながる。SiCはSiよりも高温動作に向くので、冷却機構を簡素化でき、その分だけコストを削減できる。