ロームは、FA(Factory Automation)ロボットなどの産業機器の故障予知に的を絞ったAI(人工知能)/機械学習に向けて、ニューラルネットワーク(Neural Network:NN)処理の小型回路(Intellectual Property(IP)コア)「AxlCORE ODL」を開発した ニュースリリース 。このIPコアを集積するマイコンやモーター制御ICは単価1000円程度と低コストで提供可能な上、推論だけでなく学習もリアルタイムで行える(図1)。その1000円程度のICを産業機器に搭載すれば、クラウドを利用しなくてもAI/機械学習活用の故障予知が実現できる。同社は今回のIPコアを集積したICを2024年に量産する計画である。
このIPコアの開発に携わってきたロームの西山高浩氏(LSI事業本部 回路技術開発部 システム開発課 課長)によれば、市場には産業機器向けをうたうAI/機械学習処理ICが多数あるものの、狙いが画像認識というケースが少なくない(図2)。例えば、カメラで得た製品の画像に対してAI/機械学習応用の画像認識を適用して良品/不良品を判定する。こうした画像認識向けのAI/機械学習には層数の多いDNN(Deep NN)を使うのが一般的である。DNN処理回路は規模が大きく、学習には単価が1万円以上のGPUやFPGAが必要になる。工場に並ぶFAロボットそれぞれにそうした高価なチップを搭載するのは難しく、例えば、学習のたびにクラウドのサービスを利用する必要がある。
今回、ロームが開発したIPコアは、FAロボットなどの故障予知に的を絞り、小型化を追求した。例えば、モーターの異常振動を検出して故障の予兆を捉える。異常振動の検出は、モーターに取り付けた振動センサーの出力波形を解析して行う。波形データは画像データに比べて解析が容易なため、層数が少ないNNで済む。今回のIPコアでは層数が3のNNを処理する。小規模なNNのため処理時間が短く、リアルタイムでの学習が可能である。ロームによれば、例えば3軸加速度センサー(400Hzサンプリング)からの出力を3層NN(入力層/中間層/出力層のノード数は96/12/96)で学習する場合、その処理時間は約1秒で済むという。なお、CPUコアでのソフトウエア処理に比べれば、学習時間と推論時間は共に約1000分の1に短縮できる(図3)。
今回のIPコアは回路規模が2万ゲートと小さいため、同社のモーター制御ICや同社子会社のラピスセミコンダクタ製マイコンに追加集積が可能で(図4、図5)、チップ単価は1000円程度に収められるとする。安価なため、FAロボット1台1台に今回のIPコア集積のICを搭載できる。FAロボットが設置された環境で正常な波形を強化学習し、学習済みNNを使って推論処理を実行すれば、FAロボット自体で異常な波形が検出可能である。これまでは保守担当者が定期的に異常があるかどうかをチェックする必要があったが、今回のIPコアを集積したICを使えば日常的なチェックはFAロボット自体に任せることができる。ICが故障の予兆を検知したときに、保守担当者が確認すれば済むので、保守コストの低減が期待できる。