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東北大学教授の遠藤哲郎氏と、CIESのクリーンルーム(写真:東北大学)
東北大学教授の遠藤哲郎氏と、CIESのクリーンルーム(写真:東北大学)
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 低消費電力で演算性能にも優れる新しい半導体技術の開発が進んでいる。電子が持つ磁石の性質(スピン)を利用する半導体技術「スピントロニクス」を応用すれば、消費電力を100分の1に低減でき、脱炭素につながる見込みだ。情報の処理速度や保持性にも優れ、宇宙空間におけるシステムの安定稼働にも役立つ。スピントロニクスで世界に先駆ける東北大学が、次世代半導体技術の発信地として注目されている。

 スピントロニクスを応用した半導体は、消費電力の大幅な低減やデータ処理の高速化が可能で、今のコンピューターの構造を大きく変えると期待されている。同技術を応用したMRAM(磁気記録式メモリー)は磁気(スピンの向き)でデータを記憶するため、電源を切ってもメモリー内の情報を失わずに保持できる性質(不揮発性)が特徴だ。現状のDRAMやSRAMのように情報を保持するために電力を供給し続ける必要がない。

 例えば、東北大学発のスタートアップであるパワースピン(仙台市)は、MRAMをAI(人工知能)プロセッサーに適用したときに、消費電力を2000分の1に低減できたことを確認した。演算を担うロジックの種類と使い方にもよるが、MRAMと組み合わせることで一般に消費電力を数十分の1~数千分の1に低減できると見込む。

東北大学教授の遠藤哲郎氏(写真:東北大学)
東北大学教授の遠藤哲郎氏(写真:東北大学)
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 スピントロニクスの研究拠点である東北大学「国際集積エレクトロニクス研究開発センター」(CIES)のセンター長を務める東北大学教授の遠藤哲郎氏は、「今後10年ほどでスピントロニクスを応用した半導体の消費電力を、既存のCMOS(相補性金属酸化膜半導体)半導体技術と比べて100分の1に低減する」目標を掲げる。

 MRAMは実用化が始まったばかりの技術だが、今後は処理速度を高速化したものや大容量化したものなど、さまざまな種類の製品開発が検討されている。特にデータの読み書きの速さを生かせば、システムの高速化と低消費電力化を両立できる。従来のメモリーのように電力を供給し続ける必要がなく、データを読み書きするときだけ電力を使えばよいからだ。

 遠藤氏らの研究グループが試作したSOT(スピン軌道トルク型)-MRAMは、2.9GHz(ギガヘルツ)と世界最高の動作周波数を実現したという。これはCPUなどの動作周波数と同程度の動作周波数であり、ロジックと同期して高速でエネルギー損失の少ない処理が可能になる。現在CPUチップ内やパッケージ内にキャッシュメモリーとして利用しているSRAMやDRAMをMRAMに置き換えることで、システムの消費電力を大幅に減らせる見込みだ。加えて、書き込み速度についても世界最高を達成したとしている。

 AIサーバーや高性能コンピューターで効果を発揮する見込みで、DRAMからの置き換えは2028年以降に進んでいくと見込む。一方、低消費電力が求められるスマートウオッチやIoT(インターネット・オブ・シングズ)機器などでは、既にメモリーとしてMRAMの採用が進んでいる。

スピントロニクス素子の断面画像(出所:東北大学)
スピントロニクス素子の断面画像(出所:東北大学)
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