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 ドイツAudi(アウディ)初の電気自動車(EV)として2018年に登場した「e-tron」。発売から約4年間で15万台を販売したSUV(多目的スポーツ車)が、初の部分改良を迎える。アウディの担当者は、「600kmの航続距離を確保したのが大きなポイントだ」と力を込めた。

 その部分改良車が、2022年11月9日に発表した「Q8 e-tron」である。これまでのe-tron(現行車)から車種名を変えた。アウディはEVラインアップの拡充を進め、小型SUV「Q4 e-tron」や中型SUV「Q6 e-tron」などを用意してきた。e-tronがこれらの車種より大型のSUVであることを分かりやすく表現するため、今回の改名に踏み切ったという。

アウディの新型SUV「Q8 e-tron」
アウディの新型SUV「Q8 e-tron」
電気自動車(EV)「e-tron」を部分改良して改名した。ドイツでは、2023年2月末に発売する予定。価格は7万4400ユーロ(1ユーロ=147円換算で約1094万円)から。(写真:アウディ)
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 技術的な変更点で目立つのは、航続距離を延長するための改良だ。まず、容量の小さい電池を廃止した。現行車ではベースグレードの「e-tron 50」に容量71kWh(正味容量64kWh)のリチウムイオン電池パックを搭載している。

 一方の新型車では、ベースグレードの「Q8 50 e-tron」に搭載する電池容量を95kWh(正味容量89kWh)とした。現行車では上位モデルに採用していた大容量品だ。新型車の上位グレード「Q8 55 e-tron」や走行性能を高めた「SQ8 e-tron」には、容量114kWh(正味容量106kWh)の電池パックを新たに用意した。

Q8 55 e-tronの電池パック
Q8 55 e-tronの電池パック
容量は114kWh(正味容量106kWh)で、質量は728kgである。(出所:アウディ)
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 航続距離が最も長いのがQ8 55 e-tron。ボディー形状は2種類あり、SUVタイプで最大582km(WLTPモード)、クーペスタイルの「Sportback」で最大600km(同)を確保した。なお、ボディーによって航続距離が異なる要因の1つが空気抵抗係数(Cd値)である。前者のCd値は0.27で、後者は0.24である。

高容量の電池セルを新開発

 95kWhと114kWhという2つの容量を用意したQ8 e-tronの電池は、「パックの形状は同じ」(アウディの担当者)という。角形缶タイプの電池セルを12個まとめてモジュールとし、このモジュールを36個搭載して電池パックとする点は共通。電圧も396Vでそろえてある。

 仕様を比較して分かる違いが、電池パックの質量だ。95kWh品は700kgで、114kWh品は728kgである。この差を生み出しているのが、セルの電流容量。95kWh品の電池パックに搭載する電池セルは60Ahで、114kWh品は同72Ahだ。

Q8 55 e-tronの電池モジュール
Q8 55 e-tronの電池モジュール
角形缶タイプのセルを12個内蔵する。(出所:アウディ)
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 いずれの電池セルは3元系〔正極活物質の主成分がニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)〕だろう。60Ahの電池セルは現行車にも使っているNMC622(Ni、Mn、Coの比率が6:2:2)とみられる。72Ah品は「新開発したもので、材料系を変えている」(同担当者)。アウディは詳細を明かしていないが、Coを減らしてNiを増やすことで容量を高めた可能性が高い。