フリマアプリ最大手のメルカリがFinTech事業の強化に向け、アクセルを踏む。同社は2022年10月31日、クレジットカード事業への参入を発表。スマートフォン決済をはじめとする既存事業に加え、ポイント還元数の拡大や暗号資産の取り扱い開始などの新施策を相次いで打ち出した。
スマホ決済にクレジットカード、ポイント還元といったFinTech事業は、累計発行ポイントが3兆ポイントを超える「楽天ポイント」を運営する楽天グループ(楽天G)やスマホ決済の「PayPay」を擁するZホールディングス(ZHD)がしのぎを削る。両陣営が巨大な規模を背景に共通ポイントや大規模還元で自陣営をさらに拡大する「経済圏路線」を敷く一方、メルカリはグループ内でモノとカネの循環を完結させる独自路線で差異化を図る。
値上げラッシュで「お得さ」により敏感になった消費者の心をつかめるか。
5年目の金融事業、「大胆な挑戦の下地できた」
「2017年に(FinTech子会社の)メルペイを設立して今月(2022年11月)で5年の節目を迎えた。FinTech事業単体でも安定して経常黒字を達成できている。ようやくメルカリらしくGo Bold(大胆)に事業に取り組める下地ができた」。2022年11月8日、メルカリで日本事業の責任者を務める青柳直樹上級執行役員は、FinTech事業の戦略発表会で同事業のこれまでをこう総括した。
同日にメルカリが発表したのがクレカ事業の詳細だ。本人確認済みの利用者なら、フリマアプリ「メルカリ」から最短1分で「メルカード」の申し込みが完了するという簡便さが売り。カードブランドはJCBだ。
最大の特徴は独自の与信技術を基に、既存のクレカにはない使い勝手を実現している点だ。メルペイはこれまで、メルカリアプリの利用動向データをAI(人工知能)に学習・分析させて利用者の信用度合いを算出し、後払いサービス「メルペイスマート払い」の限度額設定などに生かす独自の与信システムを構築・運用してきた。ここで使う利用動向データとは、フリマでの出品や購入、品物の代金の支払い、品物の発送、購入者と出品者双方による評価などだ。
同システムをクレカ事業にも応用する。既存のクレカで一般的な年齢や職業、年収といった属性情報に加えて、メルカリ利用動向データを基に「従来の属性情報では与信を受けにくかった利用者層にも、適切に与信を提供できると考えている」(メルペイの成沢真由美執行役員)。利用限度額は50万円を上限に、メルカリの利用実績に応じて変える。「メルカリで丁寧な取引をするほど、限度額が増える場合もある」(同)。
使い勝手の良さもアピールする。メルカリアプリで本人確認済みの利用者なら、同アプリから最短1分程度でカード申し込みが完了する。本人確認済み利用者は1216万人と「最大の競合優位点だ」(青柳上級執行役員)。この数年、セキュリティー強化に100億円単位で投資してきた成果という。
クレカと同時に決済ポイントも導入した。クレカのほか後払い決済サービスの利用に応じてポイントを付与する。還元率は最大4%で、フリマや決済の利用動向に応じて変化する。
経済圏強化に突き進む楽天G とZHD
スマホ決済やクレカといったFinTech事業で先行するのが楽天G とZHDの2大ネットグループ陣営である。ともに膨大な利用者数や事業規模を生かした経済圏の形成を志向。自陣営のサービス向けのポイントを大量に発行し、買い物代金やサービス利用料の割安感を演出して利用者の囲い込みを図っている。
経済圏強化へ相次いで手を打つのがZHDだ。2022年10月12日にはEC(電子商取引)サイト「PayPayモール」を「Yahoo!ショッピング」に統合し、サイトのデザインを刷新。PayPayかクレカの「PayPayカード」で支払うと、上限付きで「PayPayポイント」が5%たまるキャンペーンを始めた。