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 ADEKAは電池技術の学会「第63回電池討論会」(2022年11月8~10日)で、「世界最長寿命」と「世界最軽量」の2種類のリチウム硫黄(Li-S)系2次電池の開発について講演した(図1)。具体的には重量エネルギー密度は100Wh/kgと低いものの、充放電サイクル寿命が5000サイクル以上と非常に長いセル、そして重量エネルギー密度が708Wh/kg(サイクル特性は計測中)と、2次電池としては非常に高いセルの2種類である。

図1 ADEKAは2つの世界最高の電池を開発
ADEKAが第63回電池討論会で発表した2つのLi-S電池(またはLi-SPAN電池)セル(写真)。一方は「Li-S電池として5000サイクル以上という世界最長」(ADEKA)の充放電サイクル寿命を実現。もう一方は、「重量エネルギー密度が708Wh/kgで、 2次電池として世界最軽量」(同社)だという。さらに、それらの中間ともいえる重量エネルギー密度が450Wh/kgのLi-SPANセルは200サイクル以上回り、しかもクギ刺し試験でもセ氏40度未満の温度を維持して発火しなかった(写真:ADEKA、図:日経クロステック)
図1 ADEKAは2つの世界最高の電池を開発
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 これらのLi-S系2次電池はいずれも、正極活物質として「硫黄(S)変性ポリアクリロニトリル(SPAN)」という、Sを含む有機分子の重合体を利用するため、「Li-SPAN電池」とも呼ぶ。SPANは2009年に産業技術総合研究所と豊田自動織機が製造方法を確立した硫黄系繊維材料で、2018年からADEKAがサンプル出荷を始めた。

 SPANの正極活物質としての特徴は充放電サイクルに対する高い安定性だ。一方で、当初はSの含有量が低く、エネルギー密度を思うように高められなかった。2021年にADEKAは、それまでのSの含有量が38重量%品に加えて、理論限界に近い同48重量%品を開発。それを用いて、容量が3Ah、重量エネルギー密度が500Wh/kgのLi-SPANセルを試作した。ただし、充放電サイクル寿命は明らかにしていなかった。

寿命までに3万サイクル近く回る計算に

 今回は、長寿命と高い重量エネルギー密度の両極端を追求した2種類のセルを試作した。この2つの特性は互いにトレードオフになることが多く、同時に実現するのが容易ではないため、まずはそれぞれ一方の特性だけを高めたセルを試作したわけだ。

 このうち長寿命セルはセ氏45度で充電時0.3C、つまり約3時間の充電レートで、5000サイクル回ることを確認したとする(図2) 。これは、Li-S系電池としては世界最長寿といえる。

図2 5000回以上サイクルが回るLi-SPANセルは正極に4種類の炭素材料を利用
長寿命版Li-SPAN電池セル の充放電サイクル特性(a)。 5000サイクル後の容量維持率をグラフから読み取ると約94%。仮にサイクルをさらに外挿すると、 3万サイクル弱回して、ようやく容量維持率が70%になる(出所(a)と(b)はADEKA、(c)はADEKAの資料を基に日経クロステックが作成)
(a)長寿命Li-SPANセルの放電容量とセ氏45度での充放電サイクル特性
(a)長寿命Li-SPANセルの放電容量とセ氏45度での充放電サイクル特性
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(b)S38重量%含有のSPAN
(b)S38重量%含有のSPAN
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(c)正極材料の構成と重量比
(c)正極材料の構成と重量比
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 しかもそれが上限ではない。5000サイクル後の容量維持率は日経クロステックの推定で約94%。米Tesla(テスラ)など多くの電気自動車(EV)メーカーの電池で交換目安となる同70%になるまでには3万サイクル弱回る計算だ。